artscapeレビュー

岩井優 親密の遠近法

2017年11月15日号

会期:2017/09/09~2017/10/14

タクロウソメヤコンテンポラリーアート[東京都]

作品は2点。どちらも東南アジアで制作した映像だが、制作年は異なっている。ひとつは2012年にカンボジアのプノンペンで制作された《ホワイトビル・ウォッシング》。ホワイトビルはもともと中流のための住宅群だったが、内戦のため住民が去ってホームレスが入り込み、スラム化したモダンな建物のこと。ここで岩井は住人とともにゴミを掃き、床を拭く清掃プロジェクトを行なった。そのときの記録を流しているのだが、中身より映像インスタレーションがおもしろい。3つの映像を交互に斜めから投射しているため、屏風のように上下の辺がジグザグに見える。ちなみにこのビルは日本企業に買い取られ、新しいビルを建てるため解体工事が始まっているという。掃除どころではない巨大資本による浄化作用が進んでいるのだ。
もうひとつはタイで撮ったもので、ミャンマーからの移民労働者に彼らの愛用のバイクを洗うように指示したワークショップの記録映像。こちらは壁と床の2面を使い、壁面には右側に美しい寺院が見えるテラスのような場所で撮った映像、床にはそれを上から撮った映像を流している。これも内容はおもしろいものではないが、映像が美しい。「清掃」という一点からアジアの都市問題や移民問題まで突破しようとする姿勢は揺るぎない。

2017/10/14(土)(村田真)

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