artscapeレビュー

猿とモルターレ アーカイブ・プロジェクトin大阪

2017年11月15日号

会期:2017/10/28~2017/10/29

FLAG STUDIO[大阪府]

『猿とモルターレ』(演出・振付:砂連尾理)は、「身体を通じて震災の記憶に触れ、継承するプロジェクト」として、公演場所ごとに市民とのワークショップを通じて制作されるパフォーマンス作品。2013年の北九州、2015年の仙台公演を経て、2017年3月に大阪で上演された(大阪公演の詳細は、以下のレビューをご覧いただきたい)。
筆者は、今回の「アーカイブ・プロジェクトin大阪」の第1日目に参加。3月の大阪公演の記録映像を皆で鑑賞したのち、作品の感想や「継承」について参加者同士の対話を重視しながら議論を深めていく「てつがくカフェ」が開催された。一般的に、公演からそれほど間を空けずに記録上映会が行なわれることは少ない。もちろん「生の舞台」の体験は何ものにも代えがたいが、舞台の記録映像はあくまで補完的な役割であって、記録以上の積極的な意味が付与されることは少ないと言えるだろう。今回の企画の優れた点は、単なる記録映像の上映で終わらず、「てつがくカフェ」とセットで開催されたことだ。舞台を見た直後であれば、「このシーンに感動した」「あのシーンの意味は何か」というように感想や意見が作品内部に収束しがちだ。しかし、映像の場合、良い意味で距離を置いて客観的に見ることができ、さらに対話の場を通して、作品の外縁にある問題へと意識を向け、観客が主体的に考えるきっかけが開かれる。
また、記録映像の撮影と編集を担当した、映像作家の小森はるかの功績も大きい。小森の映像編集の優れた点は、舞台を見ている時の感覚に近いことだ。アップやカット割りを多用した場合、視覚的効果は増すが、「舞台上で実際に流れていた時間の持続性」が絶ち切られて削がれてしまい、「映像を見ている」感覚が増幅する。しかし小森は、基本的には引き気味の固定カメラで撮影した映像を、時間の持続性を寸断せずに要所でカット割りを挟むため、時間の流れに身を委ねながら見ることができる。かつ、袖や舞台奥から撮影した映像を挿入するなど、客席からは不可能なアングルも時折差し挟まれ、空間的な把握が補強される。舞台芸術と記録映像、アーカイブのあり方はさまざまに議論されているが、今回のように映像作家と協同する方法は、「記録映像」のあり方や質について考える際に有効なのではないだろうか。

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