2018年10月15日号
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artscapeレビュー

ナイロン100℃『ちょっと、まってください』

2017年12月15日号

会期:2017/11/10~2017/12/03

本多劇場[東京都]

(作品の結末に触れています)

ナイロン100℃『ちょっと、まってください』は作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチが別役実にオマージュを捧げた「不条理喜劇」。ある金持ち家族の家に見ず知らずの乞食家族がヌルリと入り込んでいく。言葉を交わすうちに横滑りしていく論理が思わぬ展開を呼び込み、過去さえも書き換えられていく様がおかしくも恐ろしい。自らペテン師を名乗る男(マギー)の語りに誘われて、観客は不条理の世界へと迷い込む。

だが、ペテン師の男は最終的に世界から排除されてしまう。嘘や詭弁を弄するペテンは実のところ論理に拠っているからだ。ゆえに不条理な世界にペテン師のやり方は通用しない。金持ち家族を騙していたはずのペテン師は、いつしかおかしな論理に巻き込まれ、罠とも呼べない罠に自ら落ち込んでいく。二つの家族のおかしさに気づいていながら我関せずと見て見ぬ振りをしてきた彼は、世界から手痛いしっぺ返しを喰らうのだ。おかしなことには突っ込まなければ、世界はボケに覆われる。語り手を失った観客はそんな世界に取り残される。


ナイロン100℃『ちょっと、まってください』
撮影:桜井隆幸

その先にはさらに恐ろしい結末が待っている。遠い背景として描かれていた社会運動が唐突に前景化するラスト。賛成派と反対派、そして中立派の対立の末、街には雪のような消毒薬が降り注ぐ。観客が不条理に笑う間に、外の世界では取り返しのつかないことが起きたらしい。金持ちの家の立つ土地はいつの間にか地盤沈下で沈んでいて、通りすがる人がペテン師の「ちょっと、まってください」の声に耳を傾けることはない。気づけば彼らは世界から切り離されている。

さて、ドメスティックな不条理は、果たして舞台上だけのことだろうか。「ちょっと、まってください」と声をあげるならば今のうちかもしれない。


ナイロン100℃『ちょっと、まってください』
撮影:桜井隆幸
公式サイト:http://www.sillywalk.com/nylon/

2017/12/01(金)(山﨑健太)

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