2018年10月15日号
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artscapeレビュー

橋口譲二写真展 Individual─日本と日本人

2017年12月15日号

会期:2017/11/06~2017/12/20

写大ギャラリー[東京都]

橋口譲二は1987年から、のちに「日本人シリーズ」と呼ばれるようになる写真を撮影し始めた。全国各地の17歳の男女を撮影した『十七歳の地図』(文藝春秋、1988)を皮切りに、『Father』(同、1990)、『Couple』(同、1992)、『職 1991-1995 Work』(メディアファクトリー、1996)、『夢』(同、1997)と、次々に写真集として刊行されたこのシリーズは、橋口の代表作というだけでなく1980~90年代のドキュメンタリー写真の方向性を指し示す記念碑的な大作となった。
今回の写大ギャラリーでの展覧会は、5部作が一堂に会した初めての展示の試みだという。それらを通観すると、橋口がこのシリーズを通じて何を目指していたのかが、あらためてくっきりと浮かび上がってくる。まず目につくのは、テーマ設定の鮮やかさと、それを実際に形にしていくプロセスの細やかさである。例えば、パートナーとして人生を歩んでいるカップルを撮影した『Couple』の場合、結婚はしていないということが前提となっている。さらに男女のカップルだけではなく、ゲイのカップルも被写体として登場してくる。『職 1991-1995 Work』では、その職業について間もない新人と、何十年もその仕事を続けてきたベテランとが対比される。さらに、撮影する場所を注意深く選択しているだけでなく、同時に行なわれるインタビューでの質問も練り上げられている。今回の展示では、「今日の朝食」というすべての作品に共通する質問の答えしか読むことができなかったのだが、その内容も毎回微妙に変えている。
そのような細やかな配慮によって浮かび上がってくるのは、いうまでもなくこの時期の「日本と日本人」の、リアルな手触り感を備えた実像である。6×7センチ判、あるいは4×5インチ判のモノクローム写真は、ややノスタルジックなほどに「あの頃」の空気感を呼び起こす。そのことをきちんと確認できてよかった。むろん、いま「日本人シリーズ」を再構築しようとするなら、まったく別の方法論が模索されるべきだろう。それでも、この橋口の労作は、まさに「個」としての日本人のあり方を探求する営みの、原点に位置づけられるべき作品といえる。

2017/11/16(木)(飯沢耕太郎)

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