artscapeレビュー

村越としや「沈黙の中身はすべて言葉だった」/「月に口笛」

2018年01月15日号

会期:2017/11/25~2017/12/22

CASE TOKYO/tokyoarts gallery[東京都]

村越としやがCase Publishingから写真集を2冊刊行し、それに合わせて展覧会を開催した。『沈黙の中身はすべて言葉だった』は、2011~15年にかけて福島県各地を撮影したパノラマサイズの写真群を集成している。故郷の須賀川市の周辺も大きな被害を受けた2011年の東日本大震災以降、村越の写真の質が変わったことは間違いない。画面全体を把握していく構築力が強まり、緊張感を孕んだ風景を定着することができるようになった。それにつれて、写真のフォーマットも流動的に選択するようになり、6×6判、6×7判、パノラマサイズなどを自在に使いこなしている。展覧会の会場のCASE TOKYOには、プリントのほか印刷に使用した刷版なども同時に展示され、写真集ができ上がっていくプロセスを追体験できるように構成されていた。
一方『月に口笛』は、まだ写真を始めたばかりの頃の2000年代初頭のネガをもう一度見直し、新たにセレクトして再プリントした作品集である。風景の細部に眼を凝らし、湿り気のある空気感を丁寧に写しとっていく作風が、すでにでき上がりかけていたことがわかる。こちらはtokyoarts galleryの空間に、オーソドックスにフレームに入れた写真が並んでいた。どちらも、きちんと組み上げられたいい展示だし、田中義久がデザインした写真集の出来映えも悪くない。ただ、どことなくピクトリアリズム風の、閉じられた世界に引き込まれつつあるのではないかという危惧感も覚える。両写真集のタイトルが示すように、村越は言葉をしっかりと使いこなす才能にも恵まれている。小さくまとまらず、多方向に大きく開いていくような作品に向かうべきではないだろうか。

2017/12/05(飯沢耕太郎)

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