artscapeレビュー

M&Oplaysプロデュース『流山ブルーバード』

2018年02月01日号

会期:2017/12/08~2017/12/27

本多劇場[東京都]

近年、住宅地として開発の進む千葉県流山市。秋葉原までつくばエクスプレスで30分のこの街は、しかし絶対的に東京ではない。「中心」は近いようで無限に遠い。そんな場所にいるしかない、それゆえにくすぶり続ける人々を赤堀雅秋は描いてきた。それが船橋であれ柏であれ同じことだ。いや、日本中そんな場所だらけだ。そんな場所だらけだから見過ごしてしまう。ゆえに赤堀は繰り返し彼らを描く。ともすればないことにされてしまう爆発寸前の何かを、それをなんとかいなしながら生きている人々の存在を刻みつけるように。

実家の魚屋で兄・国男(皆川猿時)とともに働く満(賀来賢人)は、親友・足立(太賀)の妻・美咲(小野ゆり子)と情事を重ねている。だが自ら駆け落ちを持ちかけた満は約束の時間に現れず、美咲が足立にすべてを話したと聞いて逆ギレする始末。ここではないどこかを求めながら、地元の親友との関係が壊れるのは怖い。怠惰な日常に絶望しつつも安住する人々。ときに互いに苛立ちをぶつけ合う彼らはしかし、狭いコミュニティでともに長い時間を過ごしたがゆえ、哀しいほどに似通っている。ちょっとした身振りや習慣、言葉づかいのシンクロにおかしみと哀愁が漂う。

作中、印象的に語られる宇宙の話がある。閉じた宇宙では、その果てまで行くと元の位置に戻ってくるのだという。ゴール地点すなわちスタート地点。どこにも行けない。どこまで行っても似たようなどん詰まり。無差別殺人の犯人らしい伊藤(柄本時生)は「親は選べなかったなー」「スタートラインが違うんだなー」と言う。世界が閉じた宇宙なら、このタイトルはあまりにアイロニカルだ。幸せはいつだって足元にある? 苛立ちをぶつける満に兄が放つ「明日、お前は何食べたい?」という問いは、たしかに作品のラストにごく微かな光を射してはいる。だが、そこにはそんな青い鳥しかいないのだとしたら。そこからどこにも行けないのだとしたら。


[撮影:柴田和彦]

公式サイト:http://mo-plays.com/bluebird/

2017/12/08(山﨑健太)

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