artscapeレビュー

風姿花伝プロデュースvol.4『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』

2018年02月01日号

会期:2017/12/10~2017/12/24

シアター風姿花伝[東京都]

優れた戯曲の上演は、時と場所を越え、現実の映し鏡として機能する。アイルランド系イギリス人の劇作家マーティン・マクドナーが1996年に発表した戯曲の上演は、2017年の日本において、恐ろしいほどの生々しさを獲得していた。

アイルランドの小さな町リナーンで老いた母(鷲尾真知子)を介護する独身の中年女性モーリーン(那須佐代子)。母のわがままに感情を爆発させることもしばしばだ。ある日、モーリーンは再会した幼馴染のパト(吉原光夫)と親密になる。それが気にくわない母は、娘がかつて精神病院にいたことを暴露し、パトからの求婚の手紙も娘が見る前に燃やしてしまう。母の様子がおかしいことに気付いたモーリーンは口論の末、手紙の内容を聞き出しパトのもとへ。やがて戻ってきたモーリーンはパトとともにアメリカに行くことになったと告げる。崩れ落ちる母の体。モーリーンは怒りのあまり、母を火かき棒で殴り殺してしまっていたのだった。葬式の夜。母の死は事故死として片付けられた。そこへパトの弟レイ(内藤栄一)が訪れ、パトが他の女と婚約したと言う。愕然とするモーリーン。しかもレイは、あの夜パトがモーリーンと会ったなんて事実はないとも言うのだ。あの夜、パトに会って結婚を約束したというのはモーリーンの妄想でしかなかった。ガラガラと崩れ去る「現実」。呆然と母の揺り椅子に座るモーリーンの姿は、憎んだ母のそれと瓜二つだった。

老老介護、毒親、連鎖する虐待。あるいは、閉じた関係のなかで狭まっていく視野とそれがもたらす悲劇。モーリーンと母は互いに主張をぶつけ合い、嘘をつき合う。観客がどちらの言い分が正しかったかを知る頃には手遅れだ。モーリーンは妄想の世界に飲み込まれ、悲劇的な結末を迎えることになる。外部の目も証拠もない場所で現実を正しく認識し続けることは難しい。そこにこの国の姿を重ねるのは穿ちすぎだろうか。そんなことを考えてしまうほど、我が身に迫る上演だった。小川絵梨子の巧みな翻訳・演出、俳優陣の好演、そして何より、日本の現在を鋭く抉る企画を立てた劇場に拍手を送りたい。


[撮影:沖美帆]

公式サイト:http://www.fuusikaden.com/leenane/

2017/12/19(山﨑健太)

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