artscapeレビュー

TPAM2018 梅田哲也『インターンシップ』

2018年03月15日号

会期:2018/02/12~2018/02/13

KAAT神奈川芸術劇場 ホール[神奈川県]

梅田哲也が劇場のテクニカルチームに「インターン」として潜入して制作した、というのがタイトルの由来。本作は、「舞台上に見るべきものは何もない」という表象批判・劇場批判をリテラルに遂行しつつも、劇場の物理的機構そのものを用いて圧倒的な感覚的体験の強度をつくり出した。

観客はまず、本来は「見えない」ところに吊られてあるはずの多数の照明装置が下ろされた舞台を目にすることになる。裏方スタッフたちによって、移動式の一階席の椅子が舞台裏に運ばれ、エレベーターに乗せられ、運び去られていく。あちこちに設置されたスピーカーの出力チェックが行なわれ、劇場空間が音響的な遠近感をもって体験される。ゆっくりと上げ下げされる照明装置。階段状にせり上がる客席の床。そうした物理的機構の「運動」と裏方の現場作業を見た後、観客は二階座席に誘導され、舞台の前列に並んだオーケストラを見下ろすことになる。チューニングがいつしか即興的な演奏へと変わる。照明装置が一段ずつ上昇し、焚かれたスモークにまばゆい光が当たり、機械の森の幻影のように直交する光と影が移ろう。オーケストラピットはゆっくりと下降し、楽器隊は見えなくなるが演奏は続く。無人で空っぽになった舞台空間上を、照明装置の投げかける光と影、そして音響が満たしていく。上方に吊られた反響版が下降を始め、ゆっくりと角度を変えながら夜のとばりが下りるように客席と舞台の間を遮っていく。囁き声、そして呼吸のような音。再び反響版が上がると、舞台上には椅子や機材がきちんと並べられ、「いつも通り」裏方スタッフたちがテキパキと行き交っていた。


[© Rody Shimazaki]

まず、通常は不可視である舞台上の構造をむき出しにし、「非日常」のイリュージョンを出現させる舞台の「日常」の光景を見せる。そして、劇場機構を駆使した、光と音による圧倒的な「非日常性」を体験させた後、空っぽだった舞台上には再び機材や裏方が姿を見せ、「日常」へと回帰する。本作の構造はこのように記述できるだろう。それは非日常と日常が何度も反転しながら入れ替わる交替劇であり、光から闇へ、生から死へ、そして夜と死を潜り抜けて再び生へと回帰するドラマでもある。単なる表象批判や劇場批判を超えて、崇高感すら漂う感覚体験へと反転・昇華させた点が鮮やかであり、そこに本作の意義はある。


[© Rody Shimazaki]

公式サイト:https://www.tpam.or.jp/2018/

2018/02/12(月)(高嶋慈)

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