2018年04月15日号
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artscapeレビュー

アーカイブをアーカイブする

2018年04月15日号

会期:2018/02/03~2018/03/25

みずのき美術館

みずのき美術館は、母体である障害者支援施設みずのきにて開設され、アウトサイダー・アートの草分け的存在であった絵画教室(1964〜2001)で制作された作品の保存と展示を行なう施設である。収蔵作品は2万点近くにのぼり、開館2年後の2014年より、デジタル・アーカイブ化の作業を進めてきた。本展は、このアーカイブ作業それ自体の「記録」を、それぞれ異なるメディアで制作する4人の作家―金サジ(写真)、髙橋耕平(映像)、田中秀介(絵画)、麥生田兵吾(写真)に依頼するという試みである。

金サジは、作品の複写や収蔵庫の整理などのアーカイブ作業の現場を一見ラフなスナップとして撮影した。だが画面をよく見ると、同じ場所を写した写真を持つ手が写し込まれ、作品をデジタル画像として取り込んだモニター画面が被写体になるなど、入れ子構造を形成する。写真として切り取られた「かつての現在」、それとの時差を異物として挿入/承認しながらシャッターを切ること、さらにその両者を同時に眼差す現在という時間。そうした時間と眼差しの多層性や異物として混入してくる過去こそ、(デジタル・)アーカイブ作業の根底にあることを金の写真は告げている。また、紙や絵画作品、カタログなどで顔を隠した人物のポートレートが頻出するのも特徴だ。それは、アーカイブ過程が全ての顕在化ではなく、「見えないもの」や欠落、眼差しの透過を拒む抵抗を内に抱え込むことを示唆する。

髙橋耕平は、アーカイブ作業の記録映像から音声を分離。コンテナや無酸性紙といった「作品を包み、保護するもの」の上にスピーカーを置き、ストロボ光が焚かれる音や作業スタッフの他愛無い会話を流した。アーカイブ作業に付随して発生する、「作品」を取り巻く周縁部分だけを拾い上げて提示することで、消し去られて空洞になった「作品」が、権力的な中心であったことを仄めかす。

一方、田中秀介は、具象的に描写しながらもどこか歪みを伴うイメージとして作業現場を絵画化した。例えば、同じ作業を反復する腕の部分は、全身に比して大きく肥大化して描かれ、対照的に椅子に座ったまま動かない下半身は小さくすぼんで描かれる。それは、作業現場を眼差す田中の視覚的残像を忠実に捉えようとしたものであり、アーカイブ作業が「人の手の営み」「労働」であることを静かに物語る。

最後に特筆すべきは、(デジタル・)アーカイブがはらむある種の残酷さや矛盾を突きつけてくる、麥生田兵吾の写真作品である。被写体となるのは、長年使い込まれたことを物語る、絵具の染みだらけの画集や絵具がこびりついたパレット、古いラジカセだ。だが、手垢の痕跡が生々しく残されたそれらは、作品然として眩い照明を当てられ、魅力を引き立たせるような鮮やかな色紙を添えられて撮影される。「作品ではない」、すなわち本来は撮影対象から排除されるはずのものが、コマーシャルフォトの手法と完璧なコントロールの下、作品然として撮影されるという矛盾。それは、「作品/作品以外」という選別の論理を示すだけではない。制作時の状況や持ち主の愛着を物語るそれらの物品は、「作品」に負けず劣らず、向き合った者に何がしかの感情的な揺らぎを与えるはずだ。だが、撮影者は主観を排して「客観的に」撮ることが義務ないしは倫理として要請される。ある一人の人生の時間が凝縮され、感情を揺り動かすものであるにもかかわらず、情報として等価的に扱われ、フラットにされてしまうのだ。その残酷さを麥生田は露呈させてみせる。

「アーカイブをアーカイブする」という本展の試みはまた、「アーカイブとは、物理的実体としての作品の周囲に、画像データ、制作年、サイズ、素材といったメタデータが次々と派生し蓄積されていく事態である」ことを自己言及的に体現する。さらに、会場風景やギャラリートークが記録され、カタログとしてまとめられることを想像すれば、本展自体のアーカイブも作られていく可能性がある(「『アーカイブのアーカイブ』のアーカイブ……」という連鎖の果てしなさ)。それは、二次的な情報の発生の連鎖性、「アーカイブ」の終わりのなさ、アーカイブすることへの欲望の果てしなさへと思いを至らせるだろう。

「アーカイブ」の必要性や重要性は近年とみに言われるが、現場に携わる経験がなければ、実際の作業の透明性や実感覚を得ることは難しい。本展は、4名の作家それぞれの視点と表現を通して、「アーカイブ(する作業)」とはどういうことなのか、抱え込む矛盾や問いも含めて多角的に浮かび上がらせた好企画だった。


左:金サジ 展示風景 右:麥生田兵吾 左より《とある画家のパレット》《とある画室のラジオカセット》


田中秀介 展示風景
[撮影:表恒匡]

2018/03/18(日)(高嶋慈)

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