2018年11月15日号
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artscapeレビュー

「Sujin Memory Bank Project #02 BANK──映画『東九条』でつなぐこと──」

2018年04月15日号

会期:2018/03/01~2018/04/22

柳原銀行記念資料館[京都府]

柳原銀行は、かつて日本最大規模の同和地区であった京都の崇仁地域に、地元有志によって明治32年に設立された唯一の銀行である。現在は地域の歴史、文化、生活資料を収集・展示する資料館となっている。「Sujin Memory Bank Project」は、この柳原銀行記念資料館を「記憶が貯蓄される場」と捉え、地域の歴史とともにアーカイブ/ドキュメントのあり方についても実践的に考察するプロジェクトである。将来的にこの地域への移転が決まっている京都市立芸術大学の芸術資源研究センターと同資料館が連携し、展示企画を行なっている。

2回目となる「#02 BANK──映画『東九条』でつなぐこと──」では、資料館所蔵の映画『東九条』の上映展示が行なわれた。1969年に公開されたこの映画は、差別や貧困といった当時の東九条の厳しい現実の告発を目的として自主制作された(崇仁地域に近い東九条は、在日コリアンが多く住む地域だが、映画の主な撮影地はその一部、南北が八条通りと十条通りの間、東西が河原町通りと鴨川の間の地域である)。監督と脚本は、現在、同資料館事務局長である山内政夫が務めた。撮影に用いられた手持ちの8mmカメラやフィルムなど関係資料も合わせて展示された。

川沿いに密集した木造家屋や、川べりをぶらつく子供たちがモノクロの粗い画面に映し出される。だがそこに「音」はない。約50年の時の間に、当時あったはずの音声トラックが失われてしまったのだ。ナレーションやBGMによる意味づけや演出を欠いた映画は、「告発のドキュメンタリー」としての役割を失い、断片的なシーンが淡々と連なる映像の波のような運動へと変質していく。リヤカーを引いて廃品回収に従事する人々や、狭く曲がりくねったぬかるみの路地を奥へ奥へと進む男の背中をカメラは追う。バス停に並ぶ通勤途中の人々。内職をする女性。公園や校庭で遊ぶ子供たち。一家の食事風景。診療所の待合室に並ぶ人々。火事の焼け跡や映画館のポスター、学生デモ。当時の何気ない日常生活の記録を私たちはそこに見出すことになる。それは、映画のスチルと、同じ撮影場所の「現在の風景」を撮った写真を並置した展示が示すように、50年前の風景と現在との差異を比較する作業であると同時に、時の経過の中での「意味の変質」をあらゆる「資料」がこうむるものとして再確認することでもある。

2018/03/18(日)(高嶋慈)

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