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写真都市展 ─ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち─

2018年04月15日号

会期:2018/02/23~2018/06/10

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

ウィリアム・クラインが1950~60年代に刊行した『ニューヨーク』、『ローマ』、『モスクワ』、『東京』のいわゆる「都市4部作」は、世界中の写真家たちに大きな衝撃を与えた。影響力という意味において、それらを上回る写真集は、それ以前もそれ以後もなかったのではないだろうか。都市の路上をベースとするスナップショットが、人間と社会との関係をあぶり出し、現代文明に対して批判的な視点を提示できることを教えてくれただけでなく、その斬新な「アレ・ブレ・ボケ」の画面処理においても、まさに現代写真の起点となったのである。

伊藤俊治が企画・構成した本展のクラインのパートを見ると、その衝撃力がいまなお充分に保たれていることがわかる。特に今回は、壁と床をフルに使った18面マルチスクリーンによるスライドショーという展示のアイデアが、効果的に働いていた。クラインの写真が本来備えているグラフィカルな要素は、デジタル的な画像処理ととても相性がいい。彼の作品に対する新たな解釈の試みと言えるだろう。

だが、本展の第二部にあたる「22世紀を生きる写真家たち」のパートは、どうも釈然としない。石川直樹+森永泰弘、勝又公仁彦、沈昭良、須藤絢乃、多和田有希、西野壮平、朴ミナ、藤原聡志、水島貴大、安田佐智種という出品者たちが、どういう基準で選ばれているのか、クラインの仕事とどんなつながりを持っているのかがまったくわからないからだ。クオリティの高い作品が多いが、それらが乱反射しているだけで焦点を結ばない。例えば、安田佐智種の東日本大震災の被災地の地面を撮影した「福島プロジェクト」など、その文脈が抜け落ちてしまうことで視覚効果のみが強調されてしまう。キュレーションの脆弱さが目についたのが残念だった。

2018/03/15(木)(飯沢耕太郎)

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