2018年05月15日号
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artscapeレビュー

《島根県芸術文化センター グラントワ》《江津市庁舎》

2009年01月01日号

[島根県]

益田市に向かい、前からずっと見たかった内藤廣が設計した《島根県芸術文化センター グラントワ》(2005)を訪れた。遠景では切妻の大屋根が印象的な建築だが、日本的なものを記号的に表現するようないやらしい感じは受けない。むしろ周囲の低層の住宅街に対し、土を盛るなど、ランドスケープの操作によって適度に切り離しつつ、浅い水盤をはった中庭の広場に面して、美術館や芸術劇場が付随し、小さな街のような複合施設になっている。また正面をひとつにせず、各方角から回廊へのアクセスを可能とし、街との連続性も失わない。外から見える屋根や石州瓦は、建築のキャラクターを与えるとともに、落ち着いた雰囲気だが、大ホールに入ると、エッジのあるコンクリートの巨大な塊に驚かされる。内外ともに建築の力を感じさせる、王道の傑作だ。 展示室がそれぞれに個性をもつのも興味深い。例えば、日本画のコレクション展「余白の美」を開催する展示室Aはホワイトキューブでなく、なんとベンガラ色だった。また子供服から始まったランバンの展開と近代の女性服を紹介する「ランバンと子供の装い」展の展示室Cは、現代アートにも対応できる天井の高い部屋であり、弧を描く天井から光を導く。一方で1960年代以降、森英恵が蝶のモチーフをどのように用いたかを振り返る展示室Bは、こぢんまりとした空間である。そして和歌山県立近代美術館のコレクションを特集した「モダン・アートに出会う5つの扉」展を開催する展示室Dは、もっとも面積が広く、随時、間仕切りを設けて、フレキシブルに使えるホワイト・キューブだった。

益田市から松江に戻る途中、吉阪隆正が手がけた《江津市庁舎》(1962)に立ち寄った。海に向かってヴォリュームが張りだすダイナミックなピロティだが、足もとを観察すると、吉阪らしい装飾的なテクスチャーや不思議な形がある。島根県に作品が多い菊竹と吉坂の薫陶を受けたのが、内藤廣であり、それが《グラントワ》に結実したと考えると、感慨深い。

《島根県芸術文化センター グラントワ》の印象な切妻の大屋根


中庭


石州瓦


大ホール


内観


《江津市庁舎》




装飾的なテクスチャー


2018/04/28(土)(五十嵐太郎)

2009年01月01日号の
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