artscapeレビュー

Q『地底妖精』

2018年06月01日号

会期:2018/04/20~2018/04/23

早稲田小劇場どらま館[東京都]

市原佐都子の演劇ユニット・Qはこれまで、女性の性や人間の動物性を中心的な主題とする作品を発表してきた。今秋には女性アーティストおよび女性性をアイデンティティとするアーティストやカンパニーにフォーカスを当てたKYOTO EXPERIMENT2018公式プログラムへの参加が決定している。

『地底妖精』は妖精と人間のハーフであるユリエリアを主な登場人物とする(ほぼ)ひとり芝居。妖精というモチーフは社会的に見えないことにされているもの、見ないふりをしているものをめぐる思考へとつながっている。白目を剥いた永山由里恵の怪演が強烈だ。本作は昨年、「こq」名義で初演され、現代美術作家の高田冬彦(演出・美術としてクレジット)とのコラボレーションでも話題を呼んだ。今回の再演では「劇場版」ということで美術がスケールアップするとともに戯曲が一部改訂され、演出にも変更が加えられた。

その変更された部分が問題だ。本作にはユリエリアが恋愛成就のおまじないをやってみせる場面がある。初演ではユリエリアひとりによって演じられたが、今回の再演では観客のひとりが恋愛成就の相手役として(半ば無理やりに)舞台に上げられた。おまじないは二つ。ひとつはローズウォーターと呼ばれる液体を相手=観客に飲ませるおまじないで、おそらくこちらは多くの観客の許容範囲内だろう。だがもうひとつはどうだろうか。 次に観客は舞台上で仰向けになるよう指示される。渋々従う観客にユリエリアは馬乗りになり、取り出したリップクリームをその顔面に塗りたくる。なぜこれが問題なのか。あるいは、なぜこれが問題にならないのか。

馬乗りになっている人物を男性だと仮定してみればよい。私が観劇した回ではここで客席から男性の笑い声が聞こえてきた。堂々たる犯行は不均衡な構造により隠蔽され、そのこと自体がある種の復讐となる。強烈な皮肉と怒りが込められた「犯罪計画」は、残念ながら成功してしまったと言わざるをえない。

[撮影:中村峻介]

公式サイト:http://qqq-qqq-qqq.com/

2018/04/23(山﨑健太)

2018年06月01日号の
artscapeレビュー