artscapeレビュー

オパンポン創造社『さようなら』

2018年06月01日号

会期:2018/04/19~2018/04/22

花まる学習会王子小劇場[東京都]

オパンポン創造社は大阪を拠点とする野村有志のひとり演劇ユニット。CoRich舞台芸術まつり!2018春の最終審査に選出された本作は、劇団としては久々の東京公演となった。

舞台は淡路島のネジ工場。そこで働く柴田(野村有志)の毎日は、同じ工場で柴田を「かわいがる」先輩・宮崎(川添公二)、同僚の暗い女・末田(一瀬尚代)、風俗狂いの中国人・チェン(伊藤駿九郎)、工場の社長(殿村ゆたか)そして行きつけのスナックのママ(美香本響)という狭い人間関係で完結していた。ところがある日、末田とチェンが社長の金を盗み出す計画を柴田と宮崎に持ちかけて──。

冒頭、末田とチェンが柴田・宮崎を裏切り、金を持ち逃げしたことが明かされると、そこに至る彼らの日常が描かれる。退勤、飲みの誘い、スナックでのカラオケオール、ラジオ体操、就業、退勤、そしてまた飲みの誘い。柴田は乗り気ではないのだが、宮崎の誘いを断ることができずに毎日朝まで付き合うハメになる。毎日、毎日、毎日、毎日。執拗に描かれる日常は、繰り返すたびに少しずつ省略され、機械的な反復になっていく。磨耗する感情。繰り返しと省略が暴き出すのは、渦の中心に凝縮されていく鬱屈だ。

関西の劇団らしく、デフォルメされたキャラとテンポのいいやりとりが笑いを呼ぶのとは裏腹に、全体のテイストは苦い。抜け出せない日常に不満を覚えながらもそれをやり過ごす柴田は、変わりたいと思うことすら放棄していたことを末田に指摘される。ヘラヘラしたうわべとその向こうに垣間見える苛立ち、それでいて変化を望まぬ弱さを野村が巧みに演じていた。犯罪計画は露呈し、変化は望まぬかたちで訪れるものの、柴田は再び工場で働くことになる。行方を眩ましていた末田も戻り、変わらぬ日常が再開する……かのように思えたが、それは持ち逃げした金を使って末田と同じ顔に整形したチェンだった(!)。衝撃の結末に、しかし柴田の漏らす乾いた笑いはどこか明るい。

公式サイト:https://opanpon.stage.corich.jp/

2018/04/22(山﨑健太)

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