2018年12月01日号
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artscapeレビュー

橋本とし子「キチムは夜に飛ぶ」

2018年06月15日号

会期:2018/05/15~2018/05/26

ふげん社[東京都]

印象的なタイトルは、作者の橋本とし子(1972年、栃木県生まれ)、の2歳の娘が、ある日押入れで遊んでいた時にふと口ずさんだ「キチム キチム キチムは よるに とぶ」という言葉に由来するのだという。「キチム」は「吉夢」に通じるが、もっと幻想的な生き物の名前のようでもある。橋本がここ10年余り、折りに触れて撮影してきたという写真をまとめたという今回の展覧会を見ていると、たしかにそこはかとなく「夢と現実が交錯する」気配が立ち上がってくるように感じる。

2人の娘の成長ぶりや、旅先で撮影された写真など、被写体の幅はかなり広い。だが、そこには一貫して日常から少しだけ遊離した時空に鋭敏に反応する視点がある。光、あるいは闇のほうに、少しずつ滲み出ていくようなプリントの調子もよくコントロールされていた。娘たちも10歳と2歳になり、子育てからやや解放されたということなので、今後はぜひコンスタントに作品を発表していってほしい。文学とも相性がいい、ユニークな作品世界が育っていきそうな気がする。

なお、東京・築地のふげん社での展示に合わせて、同名の写真集が刊行された。A4判変型のそれほど大きくない写真集だが、長尾敦子による、細部まできちんと目配りされた装丁・デザインによって、気持ちよくページをめくることができる。写真の大きさを微妙に変え、裁ち落としと余白を活かしたページをリズミカルに散りばめることで、橋本の写真の世界が的確に表現されていた。

2018/05/18(金)(飯沢耕太郎)

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