artscapeレビュー

コトリ会議『しずかミラクル』

2018年07月01日号

会期:2018/06/13~2018/06/17

こまばアゴラ劇場[東京都]

ざあぶざぶざんざん、と聞こえてくる波の音はしかし本当の波の音ではない。25世紀の地球に海はない。宇宙人は今はもう聞こえてこない波の音を想像し、口ずさんでみる。地球がなくなるまで、あと1年。

大阪を拠点とするコトリ会議は2016年に上演された短編「あたたたかな北上」をきっかけに東京でも注目され、2017年には『あ、カッコンの竹』を5都市で上演。本作は単独では2度目の東京公演となる。これまでに東京で上演された3作品にはどれも宇宙人が登場し、SFと言えばSFなのだが、そのようなジャンル分けを意に介さぬ、自然体の融通無碍が山本正典の作劇の魅力だろう。

『しずかミラクル』は最期のときを受け入れるまでの物語。滅亡迫る地球で地球人・とおる(大石英史)は宇宙人・シズカ(三村るな)と暮らしていた。しかしシズカは地球滅亡を待たずに亡くなってしまう。とおるはそれを受け入れられない。滅亡直前の地球を観光しに時間旅行者(まえかつと、中村彩乃)が訪れるが、実は過去の人間が宇宙警察からの警告を無視した結果、地球は滅亡することになったのだった。海がなくなったのも宇宙人の仕業だ。シズカの死を調査しに宇宙人(原竹志、山本瑛子)がやってくるが──。

繰り返されるのは過去からの声を聞くモチーフだ。起きたことは取り返しがつかないが、過去からの声に耳を傾けることはできる。それは過去を引き受けるということかもしれない。消えゆく地球でとおるはシズカの死を受け入れ、最期にシズカの声を聞く。海が消えて残った砂が鳴らす音も、かつて地球に存在したものの名残だ。

シズカという名は静まりかえった海からとられた。彼女が望んだのは「人間のなくしたものの名前」だ。もはやない海を臨む二人の視線は客席に向けられている。25世紀に私たちはもういない。あるいはそれは2018年の「人間のなくしたものの名前」だったかもしれない。過去からのささやかな声に耳を澄ませるための静寂は失われつつある。時間旅行者は何世紀からの旅人だっただろうか。

[撮影:竹内桃子〈匿名劇壇〉]

公式サイト:http://kotorikaigi.com/

2018/06/13(山﨑健太)

2018年07月01日号の
artscapeレビュー