artscapeレビュー

柿崎真子「アオノニマス 廻」

2018年07月15日号

会期:2018/06/20~2018/07/29

POETIC SCAPE[東京都]

柿崎真子は1977年、青森市生まれ。秋田大学教育学部卒業後、東京綜合写真専門学校で学び、2010年代から「アオノニマス」シリーズを中心に発表するようになった。「アオノニマス」とは「アオモリ+アノニマス」を意味する柿崎の造語で、確かにそこに写っているのは、地域的な特性がほとんど見えないアノニマス=匿名な風景が大部分である。柿崎はこれまで『アノニマス 雪』(2012)、『アノニマス 肺』(2013)と、2冊の私家版写真集を刊行してきた。それらに掲載された写真群と比較しても、地表、岩場、水などを中心とした本作のほうが、より匿名性が強まっているように感じる。

地域性や風土性に寄りかかった「風景写真」ではなく、あたかも医者が人体を診るように「景観」の細部をきちんと検証していこうとする柿崎の意図はよく伝わってくる。だが、今回展示された14点のように、あまりにもノイズを削ぎ落としすぎると、もともと彼女の写真に備わっていた揺らぎや膨らみも失われてしまう。そのあたりのバランスをとりつつ、『アオノニマス 雪』から立ち上がってくる人の気配や、『アオノニマス 肺』の森の植物をクローズアップで撮影していくようなアプローチも、うまく取り込んでいくべきではないだろうか。また、地理学と民俗学の融合というのも、興味深い方向性だと思う。

なお、展覧会に合わせて蒼穹舎から堅牢な造本の写真集『アオノニマス 廻』が刊行された。写真集を見ても、同シリーズはまだ制作途上のように思える。より大胆な展開を期待したい。

2018/06/27(水)(飯沢耕太郎)

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