2018年10月15日号
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artscapeレビュー

サンダーソンアーカイブ ウィリアム・モリスと英国の壁紙展─美しい生活を求めて

2018年08月01日号

会期:2018/07/07~2018/08/26

群馬県立近代美術館[群馬県]

「役に立つのかわからないもの、あるいは美しいと思えないものを、家の中に置いてはならない」。英国を代表するデザイナー、ウィリアム・モリスの言葉である。やや原理主義とも取れる強い言葉だが、それに納得させられるくらい、モリスがデザインした壁紙の数々は美しかった。猛暑のなか観に行ったかいがあったと思えた。モリスといえば、産業革命により粗悪な大量生産品があふれた世の中を嘆き、伝統的な職人の手仕事を賞賛した「アーツ&クラフツ運動」の先導者として知られる。この運動を語るとき、モリスは世界中に多大な影響を与えた思想家というイメージがともなうが、そもそもは自身の生活空間を良くしたいという純粋な気持ちから、彼のデザインは始まっている。

モリスは結婚を機に新居「レッド・ハウス」を建て、そこで快適な生活空間には壁紙が欠かせないと気づき、木版(ブロック・プリント)による壁紙を生み出した。「部屋に何を置くにしても、まず壁をどうするか考えよ。壁こそが家を本当の住まいにするからだ」という言葉をモリスは残している。最初にデザインした壁紙《トリレス(格子垣)》は、新居の庭にあったバラの生け垣がモチーフとなった。満開に咲き誇る真っ赤なバラ、生い繁る葉、いかにも鋭い棘、バラの蜜を吸う虫、その虫を狙う鳥……。生け垣のワンシーンを切り取り、写し取った壁紙からは、バラと虫と鳥たちの密やかな物語が感じられる。新婚生活を送るかたわら、その生け垣をじっと見つめたモリスの温かな気持ちまで伝わってくるようだ。

ウィリアム・モリス《トレリス(格子垣)》(1864)サンダーソン社蔵 ©Morris & Co.

鋭い観察力をもとに、動植物の曲線的な美しさを存分に生かし、それを完璧な構成でパターンに起こしたモリスのデザイン力にはあらためて感心した。当時はまだ木版が主流の時代である。版と版が連続した際の全体像を想定してデザインを起こさなければならない。と同時に、装飾は何のためにあるのかをあらためて考えさせられた。家の中を美しく飾るという目的だけでなく、モリスはおそらく何かしら物語のあるモチーフをパターン化し、その物語を人々と共有したのではないか。だからこそ、時代を経たいまもモリスがデザインした壁紙に多くの人々が惹きつけられるのだ。

本展、欲を言えば、壁紙が空間に収まった様子をもう少し観たかった。二つの空間が再現されていたものの、まだ物足りない。壁紙は絵のようにして観るものではなく、壁に張られて眺めるものなのだから。

展示風景 群馬県立近代美術館

公式ページ:http://mmag.pref.gunma.jp/exhibition/index.htm

2018/07/14(杉江あこ)

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