2018年12月01日号
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artscapeレビュー

試写「ペギー・グッゲンハイム」

2018年08月01日号

ヴェネツィアのペギー・グッゲンハイム・コレクションを築いたグッゲンハイム家の令嬢、針生一郎氏いわく「じゃじゃ馬娘」の生前のインタビューや映像に基づくドキュメンタリー映画。そのコレクションは、デュシャンからエルンスト、ダリ、ジャコメッティ、ポロックまで、モダンアートの歴史そのもの。第2次大戦中ヨーロッパのシュルレアリストらが戦火を逃れて渡米し、アメリカで抽象表現主義が花開く触媒となったことはよく知られているが、彼らの渡米を助けたのがペギーだった。つまりペギーが抽象表現主義の形成に一役買っていたのであり、芸術の中心が戦前のパリから戦後のニューヨークに移ったのもペギーのおかげだといえなくもない。彼女いわく、いちばんの功績はたくさんのコレクションを残したことより、ポロックを発見したことだと。そこまでポロックに入れ込んでいたのであり、アメリカの美術を応援していたのだ。

彼女は「1日1点」を目標に作品を買い続けたが、同じようなペースで男と寝ていたらしい。もちろん相手には有名アーティストが多数含まれているわけで。たくさんの男と寝たが、23歳まで処女だったとか、容姿に恵まれず、とくに大きな鼻を整形手術で直そうとして痛みに耐えかね断念したとか、しゃべるとき舌をペロッと出すクセがあるとか(ローラと違ってかわいくない)、知られざるエピソードも満載。そういえば、ヴェネツィアのグラン・カナルに面したグッゲンハイム・コレクションは、周囲のレンガ色の建物とは違って白い低層の建築なので周囲から浮いているため、てっきりペギーが建てたのだと思っていたら、18世紀後半に建てられた邸宅を購入したものだそうだ。この邸宅にしろ、膨大なコレクションにしろ、20世紀前半の戦争の時代に購入したから、まだ安く手に入れることができたのだ。

本人の映像やインタビューのほか、画商のラリー・ガゴシアン、美術評論家のクレメント・グリンバーグ、アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチ、ライターのカルヴィン・トムキンズ、画家だった母親の絵がペギーのコレクションに入っているというロバート・デ・ニーロ、ペギー・コレクションの館長に就任した孫娘カロール・ヴェイルらの証言もあって、この希代のパトロンの公私の生活、表裏の顔が浮き彫りにされる。監督はリサ・インモルディーノ・ヴリーランド。ファッション界でキャリアを積み、ダイアナ・ヴリーランドの孫と結婚したのを機に、初の映画「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」を監督。ダイアナは1903年パリの裕福な家庭に生まれ、ファッション界で活躍した女性で、1898年生まれのペギーと重なる部分も多い。ペギーに関心を抱いたのもうなずける。

2018/07/06(村田真)

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