artscapeレビュー

企画展「デザインあ展 in TOKYO」

2018年09月01日号

会期:2018/07/19~2018/10/18

日本科学未来館[東京都]

とても楽しんだ展覧会だった。大人も子どもも一緒になって楽しめる、良質のエンターテイメントとはこのことを指すのではないか。「デザインあ」は言うまでもなく、デザイン教育を目的にした、NHK Eテレの子ども向け番組である。本展はそのコンセプトをインタラクティブに体感する内容だった。総合ディレクターを務めたのはグラフィックデザイナーの佐藤卓だ。「身の回りに意識を向け(みる)、そこにどのような問題があるかを探り出し(考える)、よりよい状況をうみだす(つくる)」というのが、本展が伝えるデザインマインドである。これは大人も誤解している人がずいぶん多いのだが、デザインとは何もカッコイイものをつくることではない。世の中のあらゆる問題を解決し、豊かに、便利に、ストレスや混乱をなくすために必要なことである。例えば「これ、デザインはいいんだけど、使いづらいんだよね」といった会話を聞いたことがないだろうか。いかにもありがちだが、「使いづらい」ということは、すなわちデザインが悪いということなのだ。

本展は「A 観察のへや」「B 体感のへや」「C 概念のへや」と三つのブロックに分かれていた。Aではお弁当の中身に始まり、容器の形やマーク、トイレのマーク、道具と手の関係性、日本人の名字、看板文字など、取り上げる題材は子どもにもわかりやすい身の回りにあるものばかりだ。例えば容器やトイレのマークはピクトグラムの勉強になり、容器の形や、道具と手の関係性はプロダクトデザインの勉強になり、看板文字はタイポグラフィーの勉強になる。大人から見ても、何かしらの気づきを得られる展示が多かった。Bは360°にわたる映像と音の体感だ。番組の名物コーナーでもある、身の回りのものを分解していく「解散!」、日本の伝統的な紋を検証する「森羅万象」などが紹介されていた。Cでは空間、時間、仕組みを検証する。ちょうどいい入口の形と大きさ、ちょうどいいトイレの広さ、ちょうどいい人と人との距離感などは空間デザインの勉強になり、回転寿司をモチーフにいろいろな仕組みを検証する「しくみ寿し」はまさに構造の勉強になる。社会や暮らしにデザインは欠かせない。当たり前と思っている世の中のものすべてにデザインが介在することを、本展は子どもの目線に合わせて伝えてくれていた。

岡崎智弘《マークだけの群れ》 ©SATOSHI ASAKAWA

岡崎智弘+スタンド・ストーンズ《抽象度のオブジェ》 ©SATOSHI ASAKAWA

公式サイト:https://www.design-ah-exhibition.jp/

2018/08/19(杉江あこ)

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