artscapeレビュー

ダレル・ジョーンズ『CLUTCH』

2018年09月15日号

会期:2018/08/03~2018/08/04

ArtTheater dB KOBE[兵庫県]

昨年のKYOTO EXPERIMENT 2017での上演が中止となり、約1年後に実現した神戸上演でやっと見ることができたダンス作品。なぜ神戸で上演されたかというと、昨年5月に神戸のDANCE BOXにて滞在制作を経た作品だからだ。ダレル・ジョーンズは、アメリカの黒人やラテン系のゲイカルチャーの中で発展した「ヴォーギング」というダンスのスタイルを取り入れ、身体表現を通して自身のセクシャル・アイデンティティや抑圧のメカニズムについて問うてきたダンサー、振付家である。「ヴォーギング」の名称は、ファッション雑誌『ヴォーグ』のモデルのようにポージングを決めながら踊ることに由来する。本作『CLUTCH』でも、DJが刻むビートの高揚に合わせ、ジョーンズは同じく黒人の出演者2名とともに、蠱惑的なポーズを取り、あるいはランウェイを歩くモデルのように腰をくねらせながら高速でターンを決めてみせる。中盤では弁髪のように垂れ下がったカツラを装着し、トランスの集団的な高揚とも威嚇し合う獣ともつかない、ヘッドバンキングを繰り出す。

ただ表面的にクラブカルチャーを取り入れたというのではなく、ある種の両義性、メタフォリカルな戦略性、そして「儚さの美学」があることが特徴だ。蠱惑的なポーズや肢体を見せつけるようでいて、その身体は同時に硬い防御の殻を纏っている。見る者の視線を吸い寄せながら、欲望の眼差しをはね返す鎧のような緊張感が常に漂う。闘争的であり、解放感にも満ちている。その両義性は、例えば、途中で彼らが身に着ける「何重ものメタリックなバングル」に象徴的だ。暗転した暗闇の中でバングルがカチャカチャと硬質な金属音を響かせる時、それは鎖や手枷のような拘束具を想起させる。一転して明るい照明が付くと、彼らの激しい動きに合わせてキラキラと光を放ち、魅了する装身具となる。とりわけ終盤にかけては、ゲイのアーティストの多くに共通してみられる「儚さの美学」が感じられ、繊細にして強い印象を残した。高いヒールのサンダルを履いた相手の足を愛撫するようにゆっくりと持ち上げると、ヒールに付けられたクリスタルパーツが足の動きに合わせて光を放ち、ミラーボールに包まれた空間へと変貌する。ペットボトルを股間にあてがい、ぶちまけた水を相手に飲ませるラストシーンは、露骨なメタファーの中に、水しぶきに反射した光が見せる幻想的な美しさが同居する。彼らはその粒立ちの光をひと時浴びて祝福的な空間に浸された後、再び暗闇の中へと姿を消していった。



[Photo: junpei iwamoto]

2018/08/03(金)(高嶋慈)

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