2018年12月15日号
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artscapeレビュー

明治150年記念 真明解・明治美術/増殖する新メディア──神奈川県立博物館50年の精華──

2018年09月15日号

会期:2018/08/04~2018/09/30

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

国語辞典をもじったタイトルだが、本展が真に明解かどうかはさておき、きわめて示唆に富んだ展覧会であることは確かだ。サブタイトルは「明治150年記念」「増殖する新メディア」、そして「神奈川県立博物館50年の精華」の3本で、これらは本展の内容をよく物語っている。すなわち、維新150年を記念して明治美術を振り返るものであること。展示作品は油絵から写真、印刷、パノラマ館、そして日本画にいたるまで近代的「ニューメディア」であること(日本画は明治以降やまと絵や西洋画を参考にして新たにつくられたものだ)。さらに、ここがいちばんおもしろいのだが、神奈川県立博物館(旧名)のある開港都市・横浜に関連し、美術的興味より博物館的関心を喚起させるものであることだ。

まず、明治美術を振り返る展覧会なのに、“常連”の高橋由一は1点しかないし、横山大観や黒田清輝にいたっては1点も出ていない。その代わり、五姓田芳柳・義松父子をはじめとする五姓田派を中心に、義松の油絵の師であるチャールズ・ワーグマン、田村宗立や本多錦吉郎ら、どちらかというと傍系の画家たちが多い。これはひとつには横浜にゆかりがある画家たちだからであり(由一は油絵を学びに江戸から横浜のワーグマンの元に通った)、もうひとつは未知の油絵なるものと悪戦苦闘した、いわば第一世代の明治美術会系の画家たちが選ばれているからだ。つまり「明治美術」といっても、東京美術学校が開校したり『國華』が創刊したり、さまざまな意味で美術制度が整う以前の明治前半に焦点が当てられているのだ。裏返せば、この時代はまだ江戸と近代が混淆し、日本画と洋画がせめぎあっていた時代。たとえば、初代五姓田芳柳は和装の男女を陰影や立体感をつけてリアルに描いているが、画材は油絵ではなく絹本着彩だったりする。また、田村宗立や本多錦吉郎らが油絵で描く夜景や暗い雪景色は、西洋ではあまり見かけない。これらの作品に感じる違和感は、長い鎖国によって熟成した日本文化に、西洋近代のニューメディアを接続したときの化学反応みたいなものだ。

さらに興味深いのは、これらの絵が、美術館のように距離を置いて整然と並べられているのではなく、陳列ケースのなかにびっしり立て掛けられていたりすること。まるで「美術」以前の博物学の標本のように。その後の宮川香山による超絶技巧の眞葛焼も、戦争を主題にしたパノラマ画も、岩橋教章による印刷地図も、明治天皇の肖像画も、どれも「美術」とそうでないものとの境界線に位置する「つくりもの」ばかり。総点数200点を超える出品物がさほど広くない展示室にところ狭しと並ぶさまは、近世のヴンダーカマー(驚異の部屋)を彷彿とさせないでもない。そこがおもしろい。美術館ではなく博物館だからこそ発想でき、また実現できた展覧会だろう。

2018/08/28(村田真)

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