2018年12月01日号
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artscapeレビュー

下村兼史生誕115周年──100年前にカワセミを撮った男・写真展

2018年10月01日号

会期:2018/09/21~2018/09/26

有楽町朝日ギャラリー[東京都]

1903年、佐賀市生まれの下村兼史(本名・兼二)は、鳥類の生態観察写真の先駆者として知られている。1922年に自宅の池の畔の赤松にとまったカワセミを、ガラス乾板で撮影した「原板第一号」を皮切りに、富士山麓、小笠原諸島、奄美大島、北千島など、日本各地の鳥類を撮影し続け、海外にまで名前が知られるようになった。名作『或日の干潟』(1940)など、記録映画のパイオニアのひとりでもあった。今回の展覧会は山階鳥類研究所が所蔵する、下村の1万点近いプリント、原板などの写真資料から厳選したもので、彼の生涯を辿る写真パネルや、特別出品されたグラフレックス・カメラなどの撮影機材とともに、充実した内容の展示となっていた。

現在のデジタル化された自然写真と比較すると、ピントを合わせるだけでも大変だった時代の下村の仕事は、ややプリミティブなものに思える。だが、望遠レンズをつけると重さが5キロ近くになるという大判カメラを三脚に据え、狙いを定めてシャッターを切った鳥たちの写真には、目を捉えて離さない不思議な魅力がある。中心となる被写体にピントを合わせ、背景を柔らかくぼかすやり方は、当時の「芸術写真」の美意識に則ったものだが、その絵画的なたたずまいが逆に新鮮に見えるのだ。下村だけでなく、戦前の自然写真をあらためて見直すいい機会になるのではないだろうか。

やや残念なことに、この展覧会は有楽町朝日ギャラリーの1カ所で、しかも短い会期で開催されるだけである。できれば、ほかの写真家たちも含めて、もうひと回り大きな展示の企画を期待したい。

2018/09/21(飯沢耕太郎)

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