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大竹省二「ある写真家のアンソロジー」

2018年10月01日号

会期:2018/08/29~2018/09/22

Kiyoyuki Kuwabara AG[東京都]

大竹省二(1920~2015)は1945年に中国から帰国後、連合軍総司令部(GHQ)報道部の嘱託となり、写真家としての活動を再開する。女性写真や世界の音楽家たちを撮影したポートレートで、たちまち頭角を現して人気写真家となった。1953年には、秋山庄太郎、林忠彦らと二科会写真部を創設し、2003年からは同写真部理事長を務めた。

大竹のロマンティックで上品な写真作品は、つねに写真雑誌の口絵ページを飾り続けていたが、その制作活動のバックグラウンドとして、写真撮影やプリントの技術に対する真摯な取り組みがあったことは見落とされがちだ。特にカメラのレンズへの関心の深さは驚くべきもので、各種のレンズの特性を知って使い分けることで、クオリティの高い作品につなげている。それがよくわかるのは、『アサヒカメラ』(1995年1月号~2008年3月号)に掲載されたコラム「レンズ観相学」である。「タンバール90ミリF2.2」から「キヤノンEF35~70ミリF3.5~4.5」まで、158回続いたこの連載で、大竹は作例写真を掲載するとともに各レンズに対する愛情のこもったコメントを書き記している。

今回のKiyoyuki Kuwahara AGの個展では、「レンズ観相学」に「Mロッコール28ミリF2.8」の作例として掲載された「さすらい」をはじめとして、主に海外で女性モデルを撮影した写真、約20点が並んでいた。プリントは長女の大竹あゆみによるもので、大竹所蔵のレンズ13本も特別出品されている。1960年代から2000年代まで、かなり長い期間に撮影された写真群だが、的確な画面構成と光と影の微妙な移ろいを捉える能力の高さは、さすがとしか言いようがない。没後3年を経て、遺作の整理もだいぶ進んでいるようなので、そろそろ大規模な回顧展を実現してほしいものだ。

2018/09/14(飯沢耕太郎)

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