artscapeレビュー

フェルメール展

2018年10月15日号

会期:2018/10/05 ~2019/02/03

上野の森美術館[東京都]

大きな展覧会にはたいてい「生誕100年」とか「バロックの誕生」とか、それらしいサブタイトルがついてるものだが、この「フェルメール展」はサブタイトルなし、すなわちテーマなし。余計なゴタクは並べず、ただひたすらフェルメール作品を1点でも多く集めたという、むしろフェルメールを集めること自体がテーマと化したような展覧会なのだ。なにしろ現存作品35点中9点、つまり4分の1が来るのだから。これはフェルメールを1点も持たない国(西洋美術館には《聖プラクセディス》が寄託されているが、35点には含まれない)としてはほとんど奇跡といっていいだろう。ちなみに2000年に大阪で開かれた最初の「フェルメール展」には5点、2008年のときは7点来た。だいたい8年か10年ごとに大きな「フェルメール展」が開かれ、そのたびに2点ずつ増えていくので、このまま続けば2134年にはめでたく全35点が日本で一挙公開されるはず。116年後……。それまで待てないので、内覧会に行ってきた。上野の森美術館は狭くて混雑が予想されるため、日時指定入場制を採用、休館日はほとんどなく、夜もだいたい8時半まで開館、料金も一般2,500円とお高く設定。欧米か!

会場はいつもとは逆に、まず2階に上って17世紀オランダ絵画を見てから1階に下り、スリットの入った天井から光が注ぐ通路を抜けて、いよいよフェルメールとご対面という構成。最初期の《マルタとマリアの家のキリスト》から、《ワイングラス》《リュートを調弦する女》《真珠の首飾りの女》《手紙を書く女》《赤い帽子の娘》《手紙を書く婦人と召使い》の順で並び、《牛乳を注ぐ女》で終わる。この《牛乳を注ぐ女》は制作年代としてはおそらく《ワイングラス》の前後だが、今回いちばんの目玉ということでトリを務めた次第。ちなみにカタログには《取り持ち女》と《恋文》も紹介されているが、前者は来年1/9から、後者は大阪会場のみの展示となる(大阪では計6点に減る)。付け加えると、《赤い帽子の娘》は12/20までの展示なので、9点同時に見ることはできないし、年末年始は7点しか見られない。これらのうち《取り持ち女》《ワイングラス》《赤い帽子の娘》の3点は日本初公開。とくに《取り持ち女》と《ワイングラス》は前期フェルメールの佳作だ。

フェルメールの作品に関してはあふれるほど紹介されているので、せっかくだからそれ以外の同時代の画家について書いておこう。まず、フランス・ハルス。かつてはレンブラント、フェルメールと並ぶオランダの3巨匠の1人だったが、いつのまにか水をあけられ、いまやフェルメールの前座になってしまった。出品作は夫婦の対の肖像画で、ハルス特有の奔放な筆致はここでは控えめながら、黒とグレーの諧調が美しい。レンブラント周辺の画家による《洗礼者ヨハネの斬首》とヤン・デ・ブライの《ユーディトとホロフェルネス》は、どちらも斬首場面を描いたもので、オランダでは珍しい主題。その「首切り女」の名をもらった女性画家ユーディト・レイステルの《陽気な酒飲み》は、なぜかポップでキッチュでモダンに見える。レンブラント工房で修業したヘラルト・ダウは、親方とは似ても似つかない驚くような精緻な細密描写を見せる。ハブリエル・メツーの《手紙を書く男》と《手紙を読む女》は対作品で、フェルメールもしばしば描いたラブレターが主題だ。これらを見た後で1階に下りると、フェルメールがいかに異次元の仕事をしていたかがわかるはず。

2018/10/04(村田真)

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