artscapeレビュー

天文学と印刷

2018年11月15日号

会期:2018/10/20~2019/01/20

印刷博物館[東京都]

ポスターを見て、40年ほど前に工作舎が出した奇書『全宇宙誌』を思い出した。漆黒の宇宙を背景に古今の図像を散りばめ、中央に「全宇宙誌」と縦書きされた杉浦康平デザインの表紙は、同展ポスターとほとんど同じ。ちなみに同書は本文も黒地に白抜きで文章中にまで星や図像が紛れ込み、読みづらいったらありゃしない。そこがいいんだけどね。ま、とにかくそんなわけで見に行った次第。

コペルニクスを原典とする15世紀の『アルマゲスト概要』から、16世紀の『時禱書』、デューラーの天球図、ヴェサリウス『人体の構造について』、17世紀のティコ・ブラーエ『新天文学の器具』、ケプラー『宇宙の神秘』まで、近世の天文学書が並んでいる。あれ? これって9月に上野の森美術館で開かれた「書物が変えた世界」とずいぶん被ってね? だが、たしかに『アルマゲスト概要』など何冊かは金沢工大から借りた古書だが、こちらは理系稀覯書の紹介より、これらの書物が学者と印刷者の共同出版であることから、天文学の発展に果たした印刷者の役割を再認識しようというのが趣旨だ。もうひとつ、同展では「日本における天文学と印刷」と題して、江戸時代の司馬江漢による『和蘭天説』や渋川春海による『天文分野之図』といった日本の天文学書も展示している。まあこれは蛇足だな。展示空間も暗く、マニエリスムの香りが漂ういい展示だった。

2018/11/03(村田真)

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