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名作展 異国の情景 アジアへの熱情

2018年12月01日号

会期:2018/09/18~2018/12/19

大田区立龍子記念館[東京都]

地下鉄浅草線の西馬込駅から徒歩15分の住宅地に建つ川端龍子の個人美術館。こじんまりした建物だろうとタカをくくっていたら、予想外に大きくてびっくりした。ただ大きいだけでなく、ジグザグのかたちをしているではないか。設計は龍子本人。ジグザグは超大作を描いたり展示したりするためかと思ったらそうではなく、タツノオトシゴ(龍)のかたちだそうだ。

今回展示されているのは、龍子が1930-40年代に盛んに訪れた南洋諸島や中国に取材した大作十数点。満州事変に始まり日中戦争、太平洋戦争と続く戦争の時代なので、戦争画もいくつか出ている。たとえば中国山中を飛ぶ日本の戦闘機を描いた《香炉峰》。幅7メートルを超す大画面に収めた原寸大の戦闘機は迫力満点だが、なにより奇妙なのは、機体が薄絹のようにシースルーなのだ。《水雷神》にも驚かされる。水中を行く魚雷を3人の青い水の神が後押ししているのだ。油絵の戦争画がおおむね事実に即したリアルな記録画を目指したのに対して、龍子は日本画では写実表現においてかなわないと思ったのか、自由奔放な発想で豪快に描いている。

戦争以外のモチーフもあるが、この時代に龍子の描いたアジアはいずれもきな臭さが漂い、広い意味で戦争画といっていいかもしれない。たとえば《源義経(ジンギスカン)》。義経が大陸に逃れてジンギスカンになったという伝説は、中国に侵攻したこの時代もてはやされたものだ。ここではラクダを描くことでモンゴルであることを表わしている。《朝陽来》は奇抜このうえない。山並みの尾根に延びる万里の長城はまるでタコの足だし、なにより朝日が山の向こうではなく、山と山のあいだから昇っているのだ。どういう発想だ!? これはもはや戦争画というより、幻想画というべきか。

2018/11/22(村田真)

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