2019年01月15日号
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artscapeレビュー

めがねと旅する美術展—視覚文化の探究—

2018年12月15日号

会期:2018/11/23~2019/01/27

静岡県立美術館[静岡県]

大阪に行く途中、静岡に寄ろうかどうか迷ったけど、これは寄ってみて正解だった。同展は静岡県立美術館、青森県立美術館、島根県立石見美術館という地方公立美術館3館による共同企画展の第3弾。より正確には、3館のというより3人の学芸員による共同企画というべきか。静岡の村上敬氏、青森の工藤健志氏、島根の川西由里氏の3人は2010年に「ロボットと美術」展を企画。これが好評を博し、めでたく美連協大賞・奨励賞を受賞。この「ロボ美」を機に3人は意気投合して「トリメガ研究所」を結成したという。3人とも眼鏡をかけていることから「トリプルメガネ」を略した命名だそうだ。この「めがね」が今回の展覧会のテーマにもつながっていくのだが、その前に第2弾として、2014年に3人で「美少女の美術史」展を企画。これも「ロボ美」同様サブカル的要素の入ったオタク的空気の漂う展示で、同じく美連協の奨励賞を受賞した。

そして第3弾の今回の「めがね」だ。めがねといってもここでは視覚を補正するための眼鏡だけでなく、遠眼鏡、色眼鏡、顕微鏡、レンズ、VRゴーグル、万華鏡、鳥瞰図、遠近法、錯視……と拡大解釈し、古今の日本美術を中心に幅広く渉猟している。西洋の遠近法を採り入れた江戸の浮絵や、司馬江漢による静岡ならではの富士山の洋風画、浅草凌雲閣を描いた浮世絵と西洋版画の対比など興味深い展示も多いが、めがねとはすぐに結びつかない。現代では、富士山の頂上を丸く拡大した中村宏の《望遠鏡・富士山(女学生に関する芸術と国家の諸問題)》、波状ガラスを使った山口勝弘の《ヴィトリーヌNo.47(完全分析方法による風景画)》、少女の顔が連続写真のように連なる金巻芳俊の彫刻《円環カプリス》、のぞくと小さな世界が見える桑原弘明の一連ののぞき箱(これはすばらしい!)、女の子の眼鏡を通して瞳に映る外界を描いたMr.のシリーズ、著名人の眼鏡越しにその人の文章を捉えた米田知子の一連の写真のように、お眼鏡にかなった?作品もある。いささか風呂敷を広げすぎの感がないわけではないが、めがねはひとつの契機にすぎず、裸眼ではなく「なにかを通して見る」ということについて考える展覧会になっている。

特筆すべきは、トリメガ研究所の企画として新作アニメを制作していることと、3人の時代がかったポートレート写真を展覧会にもカタログにも掲げていること。そこまでやるか? ウマの合う学芸員が展覧会を共同企画することは珍しくないけど、固定した3人がシリーズのように3回も企画展を続けるというのはあまり聞いたことがない。意地悪な見方をすれば、公立美術館の学芸員が税金で好き勝手なことをやっているともいえるが、ぼくは学芸員自身が楽しんでつくる展覧会ほどおもしろいものはないと信じているので、ぜひ第4弾、第5弾と続けてほしいものだ(と思ったら、これが最後らしい)。惜しむらくは3館とも首都圏(および関西)から離れていること。だからこそできたという面もあるかもしれないけど。

2018/12/02(村田真)

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