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六本木クロッシング2019展:つないでみる

2019年03月01日号

会期:2019/02/09~2019/05/26

森美術館[東京都]

3年に一度の日本人作家による現代美術展。今回のテーマは「つないでみる」。確固と「つなぐ」のではなく、とりあえずつないでみる(けどなにかあれば離すかも)的な腰の引け方だ。それをさらに「テクノロジーを使ってみる」「社会を観察してみる」「ふたつをつないでみる」の3つの「してみる」に分けている。まあ見るほうにとってはテーマも分類もどうでもよくて、有望な作家、おもしろい作品に出会えればそれでいいのだ。

ヘンタイ趣味のアンドロイド社長と女生徒との恋愛を描いてみた林千歩の映像+インスタレーション《人工的な恋人と本当の愛–Artificial Lover & True Love–》は、まさに上記3つの分類を合体させたような作品。これは笑えた。目 は一室全体に黒く波立つ水面を現出させてみた。地上53階に、津波のような黒い波が凍結した姿はなんとも不気味。かつてターナーは嵐の海を描くとき、船のマストに自分の身を縛りつけてスケッチしたというくらい、刻々と変化する流体を静止像に置き換えるのは難しい。《景体》というタイトルどおり、景色を立体化したものでもある。すごいのは、見たところ表面につなぎ目がないし、いったいどうやってこれを搬入したか、そもそも内部はどういう構造になっているか皆目わからないことだ。

川久保ジョイは壁にマーブリングしたような模様を描いてみたが、これは壁面を削って何層にも塗り重ねられた下地を出し、新興企業向け株式市場ナスダックの今後20年の予測グラフを表わしたのだそうだ。市場予測が壁の下から浮き上がってくるというギャップがすばらしい。万代洋輔は不法投棄されたゴミを集めて富士山の樹海などに運び、立体作品をつくって撮影してみる。ゴミが主役に返り咲いた瞬間の肖像というべきか。杉戸洋はキャンバスの木枠や布を並べてみることで、絵画の成立現場に立ち会わせてくれる。と同時に、エルゴン(作品)とパレルゴン(作品の付随物)の交換可能性を示唆してもいる。出品作家は計25組におよぶが、この5組を見られただけでもいい展覧会だった。

2019/02/08(金)(村田真)

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