artscapeレビュー

佐藤信太郎「The Origin of Tokyo」

2019年03月01日号

会期:2019/02/27~2019/04/13

PGI[東京都]

佐藤信太郎が2008年に刊行した『非常階段東京 TOKYO TWILIGHT ZONE』(青幻舎)は、ビルの非常階段から大判カメラで黄昏時の東京の光景を捉えたユニークな視点の写真集だった。今回のPGIでの展示はその続編というべきもので、これまでは主に東京の東側の地域を題材としてきたが、その撮影領域を東京の中心部にシフトしている。それだけでなく、デジタルカメラを使うようになって、写真をパノラマ的につなげてプリントできるようになった。今回展示された5点のうち最大のものは、0.86×11.5メートルという絵巻物のような作品だった。展覧会にあわせて、後半部分に近作のパノラマ作品をおさめた新刊写真集『非常階段東京 The Origin of Tokyo』(青幻舎)も刊行されている。

いうまでもなく東京の中心に位置するのは皇居であり、そこにカメラを向けると、画面の下部に黒々とした部分が大きく広がる。佐藤はあえてその闇の領域を取り込むことで、「日常と非日常の間、天と地の間、数歩先に進めばこの世からいなくなるような、この世とあの世のあわい」に位置する「非常階段」という視点を強調している。東京という都市の歴史的な地層を読み解くうえで、彼が発見したポジションは絶妙の視覚的効果を発揮しているといえる。ただ、東京を江戸以来の光と闇の二元論で捉える試みは、これまで多くの文学者、アーティストたちによって積み上げられており、ややクリシェ化していることも否定できない。これから先は、さらなる多層的な視点が必要となるだろう。その点において、パノラマ作品とともに展示されていた佐藤の初期作品「Geography」は注目に値する。「平面を平面のまま撮る」というコンセプトで地表を撮影したシリーズだが、もう一度見直すと思わぬ発見がありそうだ。

2019/03/06(水)(飯沢耕太郎)

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