artscapeレビュー

幸本紗奈「遠い部屋、見えない都市へ」

2019年03月01日号

会期:2019/02/19~2019/03/09

ふげん社[東京都]

幸本紗奈は1990年、広島生まれ。2018年の写真「1_WALL」でファイナリストに選出されるなど、このところ急速に表現力を伸ばしている。東京・築地のふげん社で開催された「遠い部屋、見えない都市へ」が、最初の本格的な個展になる。

幸本はこれまで、「この場に居ながら異邦人であり続けることを目標のひとつとして」作品を制作してきた。それらは現実世界を一歩引いて眺め渡すような距離感を備えた、「もうひとつの世界」として成立していたが、あまりにも内向的であり、外に踏み出していけないもどかしさを感じさせるものだった。ところが、今回展示されたシリーズでは、「姉の住む遠い国に行き、さまよった体験」を基点にして作品を構築している。そのことによって、写真に浮遊と移動の感覚が備わり、彼女の目と心の動きにシンクロすることができるようになった。もともと、物語性を感じさせる写真の質だったが、その要素がさらに強まってきている。こうなると、写真とテキストを綯い交ぜにした展示や写真集も見たくなってくる。自分で書いてもいいし、誰かいい書き手とコラボレーションしてもいい。ぜひ実現してほしいものだ。

写真をあえて小さめにプリントして、壁にリズミカルに配置したインスタレーションもとてもうまくいっていた。写真相互のバランスをとって、気持ちのいいハーモニーを生み出していくセンスの良さはなかなかのものだ。さらなる飛躍を期待したい。

2019/02/27(水)(飯沢耕太郎)

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