2018年10月15日号
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artscapeレビュー

石内都「ひろしま/ヨコスカ」

2009年01月15日号

会期:11月15日~1月11日

目黒区美術館[東京都]

2008年6月に新作を中心に「ひろしま Springs of Time」展(広島市現代美術館)を開催し、同名の写真集(集英社)も刊行するなど意欲的な活動を展開している石内都。目黒区美術館の「ひろしま/ヨコスカ」展は、6歳の時に移り住んだ故郷、横須賀の光景を、ざらついた粒子の画像に封じ込めたデビュー作「絶唱、横須賀ストーリー」(1976~77)から、原爆資料館に保存された被災者の遺品をカラー写真でいとおしむように撮影した「ひろしま」のシリーズまで、代表作がずらりと並んでいて、見応えのある展示だった。「絶唱、横須賀ストーリー」や「アパートメント」(1977~78)のような初期の作品は、個展等に出品されたパネル貼りのプリントがそのまま出品されている。変色したり、画像が一部消えたり、端の部分が擦れてしまったりしているものもあるが、逆に時の重みがそのまま凝縮しているような感覚が生じてきていた。
石内の眼差しはいつでも被写体となるモノや身体のディテールへ、その表面の質感ヘと注がれている。「見る」という視覚的体験よりも、むしろ「目で触る」行為といった方がよいかもしれない。被写体の触感は印画紙の物質感に丁寧に置き換えられ、写真を見る者の記憶の奥底に届くような至福の時間を与えてくれる。特筆すべきは学芸員の正木基を中心としたチームによる展覧会のカタログ。石内の写真集、展覧会のデータを画像付きですべて網羅し、長時間のインタビューによってその作家活動を浮き彫りにしている。ここまで緻密かつ懇切丁寧、驚くべき情熱を傾けて制作された展覧会カタログは初めて目にした。至れり尽くせりの内容は感動ものである。

2008/11/22(土)(飯沢耕太郎)

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