artscapeレビュー

泉太郎「山ができずに穴できた」

2009年02月01日号

会期:2009/01/20~2009/03/07

NADiff Gallery[東京]

本屋の地下にあるいびつな白い部屋、壁に映るのは人体のでたらめで、ユーモラスな運動。同一人物を撮影した紙が次々に手で引きちぎられてゆく動画は、下の紙の体と上のそれとがときに重なり、パラパラマンガに似て非なる原始的で奔放な動きを見せる。「ダンス」なんて言葉が不意に漏れてしまう魅力があった。壁の下に紙の残骸。プロジェクター台に半分隠れたテレビは、紙にプリントされた元の映像(壁に沿ったり壁を蹴ったりする泉)を映す。重層的な映像(「重ねた紙を上からちぎってゆく映像」=「運動する泉」+「それを映した映像」+「映像を映した紙」)を重層化のプロセスごと展示するやり方は、最近の泉らしいこだわりを示している。事が重層的になれば必然として、作家の思惑とその結果のズレは増加する。プロセスの開示はそのプロセスこそ主役なのだといいたいようだ。タイトルにある「~できずに」は、こうした思いのズレにこそ泉の関心があることを明かしている。

2009/01/21(水)(木村覚)

2009年02月01日号の
artscapeレビュー