artscapeレビュー

Izima Kaoru『Landscapes with a Corpse』

2009年02月15日号

発行所:Hatje Cants

発行日:2008年

うつゆみこの展覧会の隣のギャラリー、アートジャムコンテンポラリーで伊島薫の展示も行なわれていた。展示そのものはあまり力が入っていなかったのだが、彼が昨年ドイツのHatje Cants社から刊行した写真集『Landscapes with a Corpse』を販売していたので、いい機会だと思って購入してきた。
この「死体のある風景」のシリーズは、1994年、伊島が編集していたファッション誌『ジャップ』に小泉今日子をモデルにスタートしているから、もう15年も続いているわけだ。モデルの交渉からはじまって、ロケ地を選び、セッティングし、撮影するという気が遠くなるような作業の積み重ねであり、尋常ではないエネルギーが費やされている。それがこのような形で国際的に評価されるようになったのは、とても素晴らしいことだと思う。
ただ、どうも日本での評価が低いように感じる。おそらく「女優が死体を演じる」というコンセプトそのものが、やや際物に見えてしまうことがその一つの理由だろう。死者を撮影することのタブーがかなり強固なこの国では、「本物」はともかく、それをわざわざ演じるという行為に対する違和感があるのではないだろうか。さらに登場するモデルが、TVや映画で人気のある女優や歌手であることが、諸刃の刃になっているようだ。彼女たちが「まじめに」演技すればするほど、どこかしらけてしまう。その点、外国では彼女たちはほとんど無名なので、逆にニュートラルに「死体のある風景」として眺めることができるのではないだろうか。いずれにせよ、伊島薫という写真家の本質である、体育会系のノリのよさが充分に発揮された快作(怪作?)である

2009/01/23(金)(飯沢耕太郎)

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