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青森県立美術館監修『小島一郎写真集成』

2009年02月15日号

発行所:インスクリプト

発行日:2009年1月10日

真冬の北国から届いた郵便物。それがこの『小島一郎写真集成』だった。青森県立美術館で開催されている「小島一郎──北を撮る」(2009年1月10日~3月8日)のカタログとして刊行されたものだが、さすがにこの寒い時期に遠い青森まで展示を観に行くのは辛い。申しわけないが、写真集として紹介させていただく。
小島一郎は1924年に青森で生まれ、1964年に39歳で死去した写真家である。1961年に「下北の荒海」でカメラ芸術新人賞を受賞、作家の石坂洋次郎、詩人の高木恭造と共著で『津軽 詩・文・写真集』(新潮社、1963)を刊行するなど、生前は将来を嘱望された若手写真家だった。だが、彼の代表作をほとんどおさめた、決定版ともいえるこの写真集を見ると、この北の作家の人生が、いくつかの運命の綾に彩られた、どちらかといえば悲劇性の強いものであったことがよくわかる。
詳しくは、同書に掲載された同館学芸員、高橋しげみによる力のこもった論文、「北を撮る──小島一郎論」を読んでいただきたいのだが、彼を東京の写真の世界に招き寄せた名取洋之助がすぐに世を去ったり、慣れない都会の生活で体を壊したり、起死回生をめざした北海道撮影行が失敗に終わったり、特にその晩年は不運が重なったということがあるようだ。とはいえ、彼の「津軽」や「凍ばれる」シリーズの、骨太の造形力と、寒々しい北の大地の手触りを鋭敏に感じとり、ハイコントラストの印画に置き換えていく皮膚感覚は、誰にもまねができないものだろう。あらためて、小島一郎の魅力的な写真世界を若い世代にも語り継ぐという意味で、今回の出版企画の意義は大きい。

2009/01/31(土)(飯沢耕太郎)

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