artscapeレビュー

新潟三大学合同卒業設計展「Session!」

2009年03月15日号

会期:2009/02/27~2009/03/01

NST新潟総合テレビ社屋 ゆめホール[新潟県]

新潟大学、長岡造形大学、新潟工科大学の三大学が合同で行なった卒業設計展。大規模にして、本格的にはじめたのは今年が初めてだという。1日目に展示、2日目に講評会「建築のこれから」、3日目にシンポジウム「地方都市/新潟のこれから」が開かれた。コーディネーターは新潟大学の岩佐明彦准教授であるが、学生の実行委員会が主体となった自主企画である。講評会は中谷正人氏、アニリール・セルカン氏とともにクリティークし、シンポジウムではセルカン氏、新潟の建築家である小川峰夫氏、東海林健氏とともに地方都市の可能性について語った。せんだいデザインリーグ・卒業設計日本一決定戦に向けて各地でこのようなイベントが行なわれたであろうが、おそらくそのなかではもっとも知名度が低いだろうし、歴史も浅い。ただし実際に参加してみて、示唆的なことが多く、とても面白かった。まず卒業設計展自体が次第にメディア化しており、規模が拡大したからか、「せんだい日本一」がイベントとして話題を呼ぶからか、その注目の度合いが数年前より格段に上がっていること。「日本一」を一種の頂点として、大学選抜、複数大学選抜、そして日本一へという流れが生まれている。しかし一方で、「卒業設計のグローバリズム」ともいうべき別の問題も発生しているように思われた。「日本一」へと流れる波は逆流して、前年の上位入賞者の作品が、次年度の作品に影響を与えるだろう。実際、最近の「日本一」において、それはすでに起こっているように感じた。メディア化したイベントの影響力によって、全国の卒業設計に一種のモードが与えられる。ところで、この合同卒業設計展「Session!」が新潟で行なわれ、また「地方都市」をテーマとしたシンポジウムが開かれたことは、その点からも興味深い。「地方都市」がとるべき方向性が、「グローバル」な情報を受け取ることなのか、「ローカル」な情報を発信すべきなのか、あるいは第三の道があるのか? 卒業設計の問題であるが、都市間競争が進んだときの、都市のとるべき道といった問題にも通じるところがある。さらには「地方都市」にもあたらないさらに小規模の「まち」はどうするのかという問題もある。合同卒業設計展もなく、情報の孤島となっている大学は少なくないかもしれない。現に、この合同卒業設計展は、これまでほとんどなかった大学間の交流を生み出すためにも機能し始めたようである。シンポジウムでいくらか共感を生んだようだったのは「地方をつなぐ」という方向性だった。日本海一決定戦をやりたいという話も学生からあがった。道州制ともパラレルな問題系であり、今後の展開が興味深い。

2009/02/28(土)(松田達)

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