artscapeレビュー

阿部大輔『バルセロナ旧市街の再生戦略』

2009年04月15日号

発行所:学芸出版社

発行日:2009年2月28日

バルセロナ建築高等研究院にて、スペインの都市計画を研究した阿部大輔氏による初の著作。バルセロナは1992年のオリンピック以降、都市再生の成功が注目を集める。その旧市街地を再生に導いた都市計画の詳細を、はじめて日本語で解き明かしたのが本書である。過去の研究者が少なかったためか、また言語の問題もあったのか、これまでスペインの都市計画が日本で紹介されることはほとんどなかった。日本は明治以降、主にイギリス、ドイツ、アメリカの都市計画を輸入してきたからでもある。しかし、バルセロナの都市政策は、例えば1999年に王立イギリス建築家協会(RIBA)から、都市として初めてゴールド・メダルを受賞するなど、現在ヨーロッパ中で高い評価を得ている。
阿部が注目したのが「旧市街地の多孔質化」である。単に小広場をつくって空間的に多孔質化をするといったハードの側面だけではない。人々がその空間を継続的に使っていくため、いかにしてアクティヴィティのネットワークをつくっていくのかといったソフトの側面の重要性も強調する。「ミクロの都市計画」として、部分から全体へとつながっていく都市計画を実践するための多様な可能性が触れられている。バルセロナの歴史的な経緯や事業としての計画も含めた広い視野のなかで、単なる都市計画の紹介ではなく、戦略的なまちづくりとはいかにあるべきかといった、より高次な問題にも接続する。「都市全体を公共空間」と捉え、質の高い公共空間の密度を高めていくバルセロナの方法論は、日本の各自治体、まちづくりに関わっている人々にとって、重要な参考例となるだろう。
ところで、本書は文献のみを参照して書かれた本ではなく、あとがきで触れられているように、バルセロナの旧市街地のさまざまな都市の匂いを知ることによって初めて生み出された本である。旧市街地に惹き付けられ、4年にわたり街路の隅々まで歩き続けた阿部だからこそ書けた、都市的重層性を帯びた渾身の著作だ。

2009/03/31(火)(松田達)

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