artscapeレビュー

入谷葉子

2009年04月15日号

会期:2009/03/17~2009/03/29

neutron[京都府]

以前もシルクスクリーンの上に色鉛筆の線を重ねた作品を発表していたが、今回は油性の色鉛筆のみを使用。色面で構成した大画面の風景は入谷が昔住んでいた家の玄関や裏庭をモチーフにしている。玄関前やその周辺で撮影した複数の記念写真やスナップ写真をもとにしているが、ごくプライベートな思い出の抽出でありながら、見ているとその光景はこちら側の思い出まで引き出していく。いまはもう跡形もなくなってしまった昔の家の記憶は私にもある。裏庭で落ち葉や廃棄段ボールを燃やしたり、玄関を開けたときに漂ってくる夕飯の匂いなど、外観や雰囲気はまったく異なるのに、入谷の作品からはこれまでアルバムで見る写真からは思い出さなかった嗅覚の記憶がよみがえってくるようだった。鮮やかな色のインパクトも強く、ネガフィルムのような色面構成に想像の「余地」があるせいも大きいだろうが、それは写真よりもリアルな感覚だ。これまでと異なる今回の展開は入谷の作品に新たな魅力をもたらしていた。また次の機会が楽しみ。

2009/03/29(日)(酒井千穂)

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