artscapeレビュー

篠山紀信「NUDE!! NO NUDE!? By KISHON」

2009年05月15日号

会期:2009/04/01~2009/04/22

NADiff A/P/A/R/T[東京都]

地下のNADiff gallery、2FのG/P+ArtJam Contemporaryとmagical ARTROOM、さらに4Fのカフェまで、NADiff A/P/A/R/T(恵比寿)の全館を使った「裸祭り」である。桜の季節にふさわしい企画ともいえるのだが、なぜ急に篠山紀信のヌードがこれほどあふれかえっているのかといえば(『美術手帖』『広告批評』も特集を組んだ)、「50年にわたるNUDE PHOTOをリミックスした」写真集『NUDE by KISHIN』(朝日出版社、Shirmer/Mosel)のプロモーションという側面が強いのではないかと思う。それと昨今の経済事情の悪化と社会の閉塞感を反映して、「何か元気になるもの」が意識的に求められているのではないだろうか。「侍JAPAN」のWBC優勝祝賀と同じムードが感じられる。
たしかに篠山紀信のヌードは晴れがましく、祝祭的な気分に満ちあふれている。逆にいえば、ヌードにつきまとってきた淫靡さ、エロティシズムの闇の部分がここまでまったく見えてこないのも奇妙といえば奇妙だ。モデルになっている女性たちは、あたかもきらびやかな鎧を身に着けているように、堂々と立派な肉体をカメラの前にさらしている。そのあたりに物足りなさを感じる人もいるかもしれないが、ここまであっけらかんとエロス礼賛を貫かれると、呆れつつもたしかに気持ちが昂揚してくる。いわゆる「草食系男子」がどんな反応をするのか(あるいはまったく反応しないのか)はわからないけれど。
2Fの二つのギャラリーで展示されていた「1960~70年代のヴィンテージ写真」は、別な意味で面白かった。カルメン・マキや秋川リサの若かりし頃の写真を見ているとヌードもまた「ドキュメンタリー」であることがよくわかる。ここでもポジティブな姿勢は貫かれていて、彼女たちの肉体の輝きがそのピークの瞬間で捉えられている。

2009/04/08(水)(飯沢耕太郎)

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