artscapeレビュー

2009年度三影堂攝影賞作品展──グラウンド・ゼロ:若い中国写真家の視点

2009年05月15日号

会期:2009/04/25~2009/06/28

三影堂攝影芸術中心[中国・北京]

三影堂攝影芸術中心(Three Shadows Photography Art Centre)は、中国の若い写真家や評論家たちによって2007年に北京郊外の朝陽区にオープンした写真芸術センター。中心になっているのは、自分たちの身体と環境との関係をモノクロームの細やかな画像に置き換えて展開する作品で知られるロンロン(榮榮)とインリー(映里)のコンビである。その三影堂が今年から若い写真家のための写真賞を創設した。審査員の一人として招かれたので、4泊5日で北京に出かけてきた。
北京オリンピック以前の「バブル」的なアート・マーケットの高騰が、リーマン・ショック以後の経済危機で弾けたことで、中国の写真界も大きな変動期に直面しつつある。三影堂からも近い大山子の「798芸術特区」などでも、画廊の撤退が相次いでいるようだ。とはいえ、4月26日にスタートした巨大アートフェア「ART BEIJING」の会場などを覗くと、若いアーティストたちや観客の熱気はただ事ではない。そんななかで第一回目の公募をした「三影堂攝影賞」は大きな注目を集め、300名近い応募があった。そのうち一次審査を通過した31名の作品が会場に展示されていた。
僕を含めて、アメリカ、オランダ、イギリス、中国の5人の審査員の投票の結果、大賞(賞金8万元=約120万円)に選ばれたアドゥ(阿斗)の作品は期待にたがわぬものだった。四川省の少数民族を撮影したモノクロームのドキュメンタリーだが、神話的ともいえるような不思議な時空に観客を引き寄せる力が備わっている。ぜひ日本でも紹介したいスケールの大きな作家だ。次回の公募も大いに期待できそうだ。

2009/04/25(土)(飯沢耕太郎)

2009年05月15日号の
artscapeレビュー