artscapeレビュー

林田摂子「箱庭の季節」

2009年05月15日号

会期:2009/03/30~2009/04/16

ガーディアン・ガーデン[東京都]

1976年生まれの林田摂子は、2006年の第27回「写真ひとつぼ展」に「森をさがす」という作品を出品した。僕はこの時の審査員だったので、彼女がグランプリ受賞を逃したのがとても残念だった。たしか5人の審査員の票が2対3に分かれて、惜しくも受賞できなかったと記憶している。
だから今回、グランプリ受賞者以外の作家に展示の機会を与える「The Second Stage」という枠で彼女の個展が実現したのは本当によかったと思う。今回発表したのは、長崎の母方の実家を撮影した「箱庭の季節」というシリーズ。実家はお寺で、祖母と伯父、伯母、その子どもたちの姿が、彼らを取り巻く環境ごとゆったりと写し出されている。いわゆる「里帰り写真」の系譜にあるもので、テーマにとり立てて新鮮みはないが、目のつけどころがしっかりしていて、自分のリズムに見る者を誘い込んでいく写真の並べ方がうまい。小説でいえば、「文体」がきちんと整っていて、安心して文章の流れに身をまかせていられるのだ。淡々とした日常の場面に、ふとエアポケットのようなほの暗い裂け目を感じるが、その入れ込み方に才能の閃きを感じる。もっと「成長」が期待できそう。大切に守り育てていってほしいシリーズである。
それにしても「森をさがす」はいい作品だった。こちらはフィンランドを舞台に、「底の底の一番大切なものは静かにあり続ける」(本展のチラシに寄せた林田のコメント)という言葉がぴったりの、さらに奥深い、一度見たら忘れがたいシリーズである。写真集にまとめられるといいと思うのだが、どこかに奇特な出版社はないものだろうか。

2009/04/02(木)(飯沢耕太郎)

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