artscapeレビュー

風の旅人~今ここにある旅~

2009年07月15日号

会期:2009/05/30~2009/06/08

コニカミノルタプラザ・ギャラリーC[東京都]

『風の旅人』(ユーラシア旅行社)は佐伯剛を編集長として2003年に創刊された隔月刊誌。深みのある精神世界を志向する写真を中心とする独自の編集方針で、2009年6月までに37冊を刊行している。その佐伯が「東京写真月間2009年」の国内作家展のテーマである「人はなぜ旅に出るのだろう… ─出会い・発見・感動─」に合わせて選抜した5人展が、コニカミノルタギャラリーで開催された。
出品作家は有元伸也、奥山淳志、西山尚紀、山下恒夫、鷲尾和彦。1961年生まれの山下から、77年生まれの西山まで、「通りすがりの土地で自分本位に風景を切り取るのではなく、一つの土地と長く付き合い、そこに生きる人々と心を通わせ、時と場所を超えて連続する人間の営みの尊さを浮かび上がらせている」と佐伯が評する、30~40歳代の写真家が選ばれている。たしかにあまりにもせっかちに、強迫観念にとらわれているかのようにシャッターを切る写真が氾濫するなかで、彼らの静かに被写体に寄り添うような制作の姿勢は貴重なものといえるだろう。どの写真家も共通して、カメラを被写体となる人物の正面に据え、まっすぐにその存在と向き合うような写真を展示していた。その衒いのない視線の質は、「人間の営み」を見つめるドキュメンタリー・フォトの基本といえる。有元や奥山の写真には、とりわけ現代を生きる日本人の姿をきちんと留めておかなければならないという、強い意志があらわれているように思えた。
ただ少し気になったことがある。たまたまインタビューの仕事で会った野町和嘉が、この展覧会を観た感想として「みんな優しいんだよね」と呟いていた。被写体との火花を散らすような激しいやりとりがないことが、野町のような修羅場をくぐってきた写真家には不満だったようだ。それは僕も同感。野町のいう「優しさ」は、諸刃の剣なのではないだろうか。

2009/06/05(金)(飯沢耕太郎)

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