artscapeレビュー

プレス・カメラマン・ストーリー

2009年07月15日号

会期:2009/05/16~2009/07/05

東京都写真美術館2階展示室[東京都]

「プレス・カメラマン」という言葉は、やや複雑な思いを引き出してしまう。第二次世界大戦中から戦後にかけては、新聞社や雑誌のカメラマンは時代の花形で、社会的な影響力も大きかった。写真を職業として志す若者の多くが、ロバート・キャパや沢田教一のような戦場カメラマンに憧れた時代があったのだ。だがベトナム戦争以後、報道の主力が写真からテレビやインターネットに移行するにつれて、「プレス・カメラマン」の存在感は次第に薄れていってしまう。今回の展覧会は、その黄金時代を支えていた朝日新聞社の5人のカメラマン、影山光洋、大束元、吉岡専造、船山克、秋元啓一の仕事にスポットを当てるものである。それに加えて、7万点以上に及ぶという朝日新聞社所蔵の「歴史写真アーカイブ」からピックアップされた、日中戦争とベトナム戦争を記録した写真も展示されており、「プレス・カメラマン」の仕事の光と影がくっきりと浮かび上がってきて見応えがあった。
朝日新聞社写真部の「三羽烏」と称された大束元、吉岡専造、船山克の写真を見ると、それぞれの写真家としての資質や姿勢が、作品にもきちんとあらわれている。大束の洒脱な才気、吉岡のドラマ作りのうまさ、船山のしっとりとした詩情──カメラマンの個性はむしろ報道の現場では抑圧されることが多いのだが、この時代の写真家たちは『アサヒカメラ』の口絵ページなどを通じて、自分のスタイルをきちんと確立しようとしている。そのあたりも、報道写真に翳りが見えてくる1970年代以降にはむずかしくなっていったということだろう。3階展示室で同時に開催された「旅 第一部東方へ」を見ても感じたのだが、東京都写真美術館の収蔵品を中心とした展覧会も、けっこう面白いものが増えてきた。学芸員たちに、手持ちの札を上手に使いこなす力量がついてきたということだろう。

2009/06/21(日)(飯沢耕太郎)

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