artscapeレビュー

廣見恵子「DRAG QUEEN ジャックス・キャバレーの夜」

2009年08月15日号

会期:2009/07/03~2009/07/31

gallery bauhaus[東京都]

廣見恵子は1980年生まれ。1999年に渡米し、大学、大学院でフォト・ジャーナリズムを専攻した。今回が日本での初個展である。撮影のテーマは、ボストンのキャバレーで夜ごとパフォーマンスをおこなっているドラッグ・クィーンたち(女装のゲイ)。日本でも風俗として定着しつつあるが、やはり本場は迫力が違う。特に毒蛾を思わせるけばけばしい化粧と衣装で、過剰に女性性を強調する黒人のドラッグ・クィーンの強烈な存在感は、圧倒的としかいいようがない。
彼女のコントラストの強いモノクロームのプリントは抑制が利いており、被写体との距離感もきちんと保たれている。特に広角レンズ(16~42ミリ)の画角の広さと被写界深度の深さを巧みに利用した楽屋裏の群像は、ひしめき合う肉体とモノの連なり具合、重なり具合が絶妙で見応えがある。廣見がアメリカの正統的なドキュメンタリー・フォトの方法論を、しっかりと学び取った成果がよくあらわれているといえそうだ。逆にいえば、被写体との関係がどこか優等生的で、こだわりや危うさがあまり感じられないともいえる。もう少し被写体との距離を詰めて、身についた撮影やプリントの手法を踏み外したシリーズを見てみたい気もする。

2009/07/11(土)(飯沢耕太郎)

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