artscapeレビュー

画家の眼差し、レンズの眼 近代日本の写真と絵画

2009年08月15日号

会期:2009/06/27~2009/08/23

神奈川県立近代美術館/葉山[神奈川県]

梅雨明けの強い夏の陽射しの中、神奈川県立美術館の葉山館をはじめて訪れた。海に面していて気持ちのいい環境。レストランのテラスからの眺めは、日本の美術館でも一、二を争うものだろう。
開催中の「画家の眼差し、レンズの眼 近代日本の写真と絵画」展もなかなか充実したいい展示だった。近代絵画と写真との相関関係を浮かび上がらせる展覧会は、これまでもたびたび企画されてきた。だが本展は出品作215点余という規模においても、幕末から1930年代まできちんと目配りした作家及び作品の選定においても、この種の展示のエポックとなるものだろう。しばらくはこの展覧会を超える企画は成立しないのではないだろうか。
幕末~明治初期に島霞谷、横山松三郎、高橋由一、五姓田芳柳父子らが展開した、写真と絵画が一体化した活気あふれるアマルガム的な表現も面白いが、あらためて目を見張ったのは、大正から昭和初期にかけての「芸術写真」の時代の作品群のクオリティの高さである。「ピクトリアリズム」(絵画主義)のひと言で片付けられることが多いが、野島康三、日高長太郎、梅阪鶯里、有馬光城、渡辺淳らの高度な技術を駆使したプリントのレベルは、驚くべき高さに達している。その緻密な工芸品を思わせる画面構成の強度は、これから先に受け継いでいくべき貴重な遺産といえる。画像の処理能力が格段に上がったデジタル時代にこそ、「ネオ・ピクトリアリズム」が派生してくる可能性があるからだ。むしろ若い写真家たちにぜひ見てほしい展覧会である。

2009/07/14(火)(飯沢耕太郎)

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