artscapeレビュー

他人の顔

2009年09月01日号

会期:2009/08/12~2009/08/18

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

1966年制作の勅使河原宏監督作品。「武満徹の映画音楽」というイベントで上映されたように、音楽は武満徹、原作・脚本が安部公房、美術に磯崎新と山崎正夫。しかも平幹二郎演じる精神科医の病院内には、三木富雄の「耳」が設置されている。顔面に大火傷を負った男が他人の顔の「仮面」を手に入れることで妻の愛を取り戻そうとする物語に一貫しているのは、身体のパーツにたいする偏執的な視線。アイデンティティと結びついた顔はもちろん、水槽に沈められる手首の模造、岸田今日子のつりあがった口角、京マチコのなまめかしい脚、右顔を隠した入江美樹の左顔、そして仲代達矢の恐ろしいほど澄んだ黒い眼! こうした分析的な視線が次第にエスカレートしていき、虚飾や建前、化粧といった「表面」を切り裂き、その下に隠されているどろどろした「内面」をゆっくりとえぐりだしていくサディスティックなプロセスこそ、この映画の醍醐味である。

2009/08/13(木)(福住廉)

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