artscapeレビュー

五味彬 写真展

2009年09月15日号

会期:2009/08/04~2009/08/22

ときの忘れもの[東京都]

もうだいぶ前の話なので忘れている人も多いと思うが、1991年に五味彬の写真集『Yellows』が、マガジンハウスから刊行直前に裁断・廃棄されるという事件があった。五味は1989年頃から「世紀末の日本人の体型がどうだったのかという記録として」、若い女性モデルのヌードを撮影してきた。『Brutus』誌などにも掲載されたそのシリーズを出版しようとしたところ、いわゆる「ヘア」が写っているということで、上層部の判断で出版中止に追い込まれたのだ。「へア・ヌード解禁」直前の混乱ぶりがよくあらわれているエピソードといえるだろう。
昨年、その幻の『Yellows』のプリントをコラージュして、屏風仕立てで展示したのに続いて、今回は『月刊PLAYBOY』の掲載作品、写真集『nude of J』(朝日出版社、1991)のためのポラロイド作品などを中心に出品している(着衣の作品もあり)。写真を見てまず感じる「懐かしさ」は、ヌードというジャンルの「記録」性をよく示している。モデルの体型や髪型、さらにたとえば眉毛や体毛の処理にあらわれている微妙な違和感、さらに彼女たちを取り巻いている空気感としかいいようのないものの違いが、1990年前後(もう20年も前だ!)という時代のイコンとなっているのだ。当時この作品を見た時に感じた生々しさがきれいに削ぎ落とされ、西欧社会とは異質の慎ましやかさ、きめ細かさを持つ「日本人(Yellows)の裸」というもっと抽象的な概念が浮かび上がってきているのが興味深かった。

2009/08/14(金)(飯沢耕太郎)

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