artscapeレビュー

十文字美信「FACES」

2009年10月15日号

会期:2009/09/05~2009/10/10

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート[東京都]

ベテラン写真家の意欲的な新作展。タイトルが示すように「顔」をテーマにした連作の展示で、どんな「顔写真」を志向しているかというと、「まず『決定的瞬間』から自由であり、ドラマティックな表情よりもっと大切なものがあると思わせる写真、そして何よりも心惹かれるのは、撮ってみなければ結果がわからない、論理的に計算できるものをはるかに凌駕する顔の写真だ」という。その意図を実現するために、おそらくミラーのような仕掛けを使って、若い男女の顔を切断したり、ずらしたりして再結合している。セルフポートレートもあり、こちらは透明プラスチックのマスクをかぶり、顔の一部をブラしている。別に悪くはないが、「論理的に計算できるものをはるかに凌駕する顔の写真」という強度まで達しているかといえば、やや疑問が残った。これからさらに探究を進めていく、その中間報告というところではないだろうか。それよりは、同時に展示されていた十文字のデビュー作、1971年の「首なし」のポートレートの方に凄みを感じる。首から上がフレームの外に切断されているのが、このシリーズの基本コンセプトだが、今回手も切れている(袖やポケットの中に)写真が多いことに気づいた。5枚の展示作品中、4枚が「手なし」だ。

2009/09/15(火)(飯沢耕太郎)

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