artscapeレビュー

吉田桂二『間取り百年──生活の知恵に学ぶ』

2009年12月15日号

発行所:彰国社

発行日:2004年1月

建築家による20世紀の日本住宅史である。興味深いのは、戦争を分水嶺とし、戦前と戦後では、住宅において未曾有の大変動が起きたことを指摘していることだ。戦前は民家の時代であり、普通の人は自分の家を所有していなかったのに対し、戦後は持ち家が当たり前になり、住宅産業の時代に変化したという。いわゆる建築家が登場するのは、1950年代の池辺陽らの最小限住宅だけなのだが、それは唯一、建築家の試みが社会に届く可能性をもっていたからだ。本書においてユニークなのは、著者自身による手描きの図面である。ほとんどがフィールドワークなどによって自ら採集したものであり、しかも家具や住人が寝ていた位置なども細かく書き込まれている。ゆえに、抜け殻のような図面ではない。生活が具体的に想像できる絵なのだ。そこから当時の世相も見事に浮かびあがる。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

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