artscapeレビュー

佐藤時啓「Tree 光─呼吸」

2010年01月15日号

会期:2009/11/27~2010/12/22

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

「光の彫刻」というべき写真作品を1980年代から発表し続けてきた佐藤時啓の新作は、巨木を中心に据えた大判プリントだった。樹の周囲を光の集合体がふわふわと漂うように取り巻いているが、これは鏡の反射を利用したもの。8×10インチの大判カメラのレンズに、長時間露光を可能にするNDフィルターをつけ、鏡を手にして移動しながら光の信号をレンズに向けて送り続けた。仕掛けは単純だがとても効果的で、光の群れがまるでふわふわと宙を漂う人魂のように見える。佐藤が以前書いていたように、それらはある意味で「そこに僕がいたという証し」でもあり、風景が呼吸するように生気づいて、見る者を作品の中に引き込んでいく。今回は特に森の中という場面設定がうまくいったのではないだろうか。長時間露光によって樹の枝や草むらが風に揺れてブレて写ったりして、白昼夢のような雰囲気がより強まっているのだ。これまでどちらかといえば人工物を背景にすることが多かった「光─呼吸」のシリーズだが、自然の中で撮影するとまた違った見え方になるのがわかった。

2009/12/03(木)(飯沢耕太郎)

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